Music of Frontier

書き上げた手紙を、病院に持っていく前に。

俺は数時間ほど仮眠を取った。

夜明けまで手紙の内容を考えていたせいで、すっかり頭が疲れてしまったから。

数時間眠って、よし、いざ病院に行こう、と部屋を出たところで。

「あら、ルクシー。今起きたの?」

「あ…母さん…おはよう」

「もうお昼過ぎよ?」

全くもう、と呆れる母。

違うんだ。別に遊んでた訳じゃないんだよ。

ちょっとその…お手紙書いてて。

「丁度良かったわ、ルクシー。さっきね、パンプキンパイ焼いたの。一緒に食べない?」

「え…?あぁ、今日…体調良いの?」

「えぇ。今日は大丈夫」

そうか。お菓子作れるということは、今日は具合が良いみたいだ。

それは何より。

パンプキンパイは食べたいけど、でも今は。

「ごめん。これから出掛けるから…帰ったら食べるよ」

「あら、何処に…。…ルトリア君のところね?」

「…そう」

ルトリアが今、入院していることは…母も知っている。

俺が話したから。

そして母は、俺に負けないくらい…ルトリアのことを心配している一人だった。

「ルトリア君…。まだ面会出来ないの?」

「…うん。まだ駄目だって」

「そうなの…。…可哀想にね。一体どうしてあんな簡単に、我が子を見捨てられるのかしら…。私には、とても理解出来ないわ」

…最近の、母の口癖である。

同じ母親として、ルトリアの親に思うところがあるらしい。

「あなただけは、ルトリア君を見捨てては駄目よ」

「分かってるよ」

俺だって、当然そのつもりなのだから。

ルトリアが俺を見捨てても、俺はルトリアを見捨てたりはしない。

「パンプキンパイ、持っていってあげられないかしら。あの子甘いもの好きだったから…」

それは…良い考えだとは思うけど。

「さすがに無理だと思う…。一応、食事管理もされてるんだし…。勝手なもの差し入れる訳にはいかないよ」

「そうよね…」

前、エインリー先生に聞いてみたことがあるのだ。

ルトリア、甘いもの…プリン好きだから、プリン差し入れても良いかって。

病院の方で厳密に食事管理をしているから、外部からの差し入れはちょっと…。と断られてしまった。

それに…多分、差し入れをしても、ルトリアは手をつけようとしない。

結局、手付かずで捨てる羽目になる。

エインリー先生が俺の申し出を断ったのは、そういう理由もあるのだろう。

でも、今日の俺には、手紙がある。

この手紙が、現状を打開する起死回生の一手になるかもしれない。

「…それじゃ…行ってくる」

「そうね…。行ってらっしゃい」

今は、この手紙に賭けることにする。