Music of Frontier

ルトリアと初めて会ったのは、俺達が9歳のとき。

忘れもしない、マグノリア家主催のパーティーが催された日だった。

その日は確か、マグノリア家の当主、つまりルトリアの親父さんの誕生日、かつ当主になって20年目を祝う記念式典の日だった。

俺は母と共に、そのパーティーに招かれていた。

今まで、俺はそういったパーティーに行ったことはなかった。

まだ幼かったせいもあるが、そもそもエルフリィ家は弱小貴族だから、滅多にこのような式典には招待されないのだ。

今回の式典はかなり大規模なものだったし、ルティス帝国各地の貴族が何十人と招かれていたから、偶然その中の一人として呼んでもらえたのだろう。

それに…昔、俺が生まれるずっとずっと前、エルフリィ家はマグノリア家と仲良くしていたそうだから。

そのよしみで、一応招待状を送ってきたのだと思う。

でも、当時の俺達には、そんなパーティーに招かれること自体、とても大変なことだった。

招待状を前に、母と俺と使用人達は、皆難しい顔で考え込んだ。

これを、一体どうしよう、と。

誘われたからって、じゃあ行きますね、とホイホイ行けるような状況じゃない。

というのも、エルフリィ家は当時、当主が替わったばかりだったから。

それまで我が家の当主は、俺の父だった。

しかし、つい二ヶ月ほど前…父は、不慮の事故で急死していた。

大好きだった父が亡くなった悲しみに浸る前に、我が家は次の当主を決めなければならなかった。

順当に行けば、次の当主は、前当主の息子、つまり俺だ。

でも、俺は当時9歳。

当主になるにはあまりに幼いということで、代わりに母が、俺が成人するまで当主代行を務めることになった。

それで一件落着かと思いきや、そう簡単にはいかない。

というのも、母は昔から、今でも、身体の弱い人だったから。

子供が一人しかいないのもそのせいだった。母は身体が弱く、一年のうち半分はベッドの上で過ごさなければならないような人だった。

そんな身体で当主は無理だ、と俺は思ったし、使用人達もそう思っていたに違いない。

それでも母は、貴族としての重責を幼い俺に託すことを拒んだ。

出来ることなら自分が代わりたい。頑なにそう言い続けた。

結局母に押しきられる形で、新当主が決まった…のは良かったが。

ようやく落ち着いてきたところで、マグノリア家からのこのお誘い。

身体の弱い母は、しょっちゅう体調を崩し、体調の悪い日はベッドから起き上がるのも難しかった。

パーティーの日に、もし体調が悪くなったら。

マグノリア家相手に、当日ドタキャンなんて有り得ない。

ならばいっそ、体調不良の為、と断りたかった。

でも、それも出来なかった。俺達は断れる立場じゃない。

下流貴族の俺達を、畏れ多くもマグノリア家が呼んでくださったのだから、行かない訳にはいかない。

そして、問題はそれだけではなかった。