Music of Frontier

「…あ、また来てくれたんだね、ルクシー君」

「…エインリー先生」

固く閉ざされたルトリアの病室。その扉の前のベンチに座っていたところ。

ルトリアの担当医である、エインリー先生に会った。

最近では、すっかり顔馴染みになった。

「どうですか?今日は…。ルトリアの様子は」

病院スタッフ以外、一切の面会謝絶状態にある今。

ルトリアの容態を知りたかったら、このエインリー先生に聞くしかない。

少しでも、良くなっているという言葉が聞ければ良かったのだが。

エインリー先生の表情は曇ったままだった。

…やっぱり、駄目か。

「うーん…。あまり良いとは言えないね。ご飯食べてくれないし…。話しかけてもほとんど反応がないままだよ」

「…そうですか」

思った通り、やっぱりまだ駄目だった。

そうか。まぁ、そんな単純には行かないよな。

「俺にも…会いたくないって言ってます?」

「君がしょっちゅう会いに来てくれてる、ってことは何度も話してるよ。でも、やっぱり会いたくないみたい」

「…」

会わせる顔がない…ってことなんだろうな。

何でだよ、ルトリア。俺はお前がどうなっても会いたいし、顔も見たいのに。

「ごめんね。でも彼も、君のことが嫌いだから、意地悪してやろうと思って会わない訳じゃないんだよ。今は、自分のことで精一杯だから…」

面会拒否された俺が、気を悪くしないようにだろう。

エインリー先生は、必死に俺を慰めて、ルトリアを擁護しようとした。

「大丈夫です。分かってますから」

ルトリアが俺に意地悪するはずがない。

それだけ余裕がないってことなのだ。

ただ生きていくことだけで、精一杯で。

そんなことは、言われるまでもなく分かっている。

でも、だからこそ俺は力になってやりたいのだ。

だから…せめてもの手段をと思って、考えてきたことがある。

今日は、そのことについて…エインリー先生に相談してみようと思っていたのだ。

「…丁度良かったです、エインリー先生…。俺、相談があって」

「相談…?何かな?」

駄目元だし、多分「それはやめた方が…」と言われることは分かってるけど。

でも、可能性が1%でも残っているなら、何でもやってみたい。

「面会が出来ないのなら…その、手紙を届けてもらうことは出来ませんか?」

「…手紙…?」

今まで、俺がどんなに頼んでも、面会許可は降りなかった。

せめて五分でも、五分が駄目なら一分でも。

一分が駄目なら十秒でも良い。

そう拝み倒したけど、やっぱり面会は許可されなかった。

だから、面会はこの際、脇に置いて。

とにかく、俺はルトリアに言葉を届けたかった。

その手段として、手紙。

声を届けられないなら、せめて文字に起こして伝えたい。

それは、駄目だろうか。

顔を見せず、手紙だけならワンチャン届けてもらえるのではないか。

「お手紙…お手紙かぁ。うーん…」

「お願いします。ほんのメモ程度で良いですから」

ルトリアに話したいことなんて、便箋10枚でも足りないくらいだけど。

多分、今のルトリアは長い文章を読む気力もないだろう。

せめて、小さいメモ用紙一枚くらい。

この際、届けてくれるのら、付箋一枚でも構わない。

とにかく、ルトリアの世界を病室の外に繋げてやりたかった。

このままじゃルトリアは、二度と病室の外に出られないかもしれないから。

そんなのは嫌だ。絶対に。

「…」

エインリー先生は、難しい顔で腕を組み、うーん、と唸った。