Music of Frontier

─────それから、二ヶ月。





…俺は未だに、ルトリアには会わせてもらっていなかった。

とはいえ、二ヶ月前、初めて見舞いに来たときより、俺は今のルトリアがどういう状態にあるのか、詳しく知っていた。

ルトリアの担当医が教えてくれたのだ。

本来、家族でもない俺が担当医から話を聞くなんてことは出来ない。

でも今のルトリアには家族がなく、そして俺以外の面会客もいなかった。

実質、俺だけがこの世でルトリアを気にかけている人間だったのだ。

だから今では、すっかり家族扱いだった。

この二ヶ月、週に五~六回は病院に通い、ルトリアの容態を聞いてきたが。

残念ながら、ルトリアの容態は良くなっているとは言い難かった。

何度も通っているのに、未だに面会の許可は降りなかった。

ルトリアは、帝国騎士官学校をクビにされ、おまけに家族からも捨てられ。

それだけではなく、訳あって左膝に障害を負い、もう二度と杖なしでは歩けない足になったそうだ。

そのせいで精神を病んだルトリアは、児童養護施設に入ってすぐ、手首を切って自殺しようとしたとか。

そういう経緯で病院に連れてこられ、懸命な治療が続けられているものの、今でも面会謝絶状態から変わらない。

それを聞いて、俺は自分が情けなくて仕方なかった。

ルトリアが一体どれほど辛い思いをしたのかと思うと、いてもたってもいられなかった。

俺の考えが甘かった。ルトリアは、とっくに人生に絶望してしまっていたのだ。

彼は生まれたときから、帝国騎士になる為に、それだけの為に生きてきた。

両親に「帝国騎士になれ」と発破をかけられながら、優秀な姉の背中を見て育った。

それは最早、洗脳教育だ。生まれたときから、帝国騎士になる以外の道を与えられずに育ったのだから。

それ以外の選択肢など、考えることすら許されなかったはず。

どんな苦労も、苦しみも辛さも、何もかも「帝国騎士になる為」の一言で片付けられて生きてきた。

それが、ルトリアのアイデンティティだったのだ。

そうやって、血の滲むような苦労をして、ようやく念願の帝国騎士官学校に入学したのに。

そこで、ルトリアがどんな目に遭ったか。

先輩達の下らない嫉妬心のせいで、酷い嫌がらせ…いや、いじめを受けた。

やってもいないカンニングを疑われ、クラスメイトも、友達だと思っていた人も、ルトリアを見捨てた。

どれだけ寂しかったことか。孤独で辛かったことか。

それなのに、支えになってやるはずの、最愛の姉からも見捨てられたと言うではないか。

結局、カンニング疑惑が再燃し、あろうことか入学試験まで遡って、あることないことでっち上げられ。

ルトリアは、あんなに苦労して入学した帝国騎士官学校をクビにされた。

カンニングのせいで帝国騎士官学校を退学させられたなんて、プライドの塊である貴族の家が許すはずはない。

ルトリアはマグノリア家の当主、つまり実の父親から感動を言い渡され、家名を取り上げられて、家から追い出された。

ルトリアの両親は、ルトリアがカンニングしたなんて根も葉もない嘘を信じているのだ。

あいつがそんなことをする人間じゃないってことを、知らないのだ。

自分の無実を、家族に信じてもらえなかったルトリアは、どんなに辛い思いをしたのだろう。