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外伝Ⅳ~capriccioso~ (3/4)
俺も今ではそれなりに有名人になったが。
彼のオーラは、俺なんかとはまるで比べ物にならなかった。
何て言えば良いんだろう。横に、物凄く偉い人がいるみたいな気分。
誰だって、女王陛下と同じエレベーターに居合わせたら、畏れ多くて怯えるだろう。それと同じ。
…俺、もしかしてとんでもない人と乗り合わせてしまったのでは?
女王陛下に「開」ボタン押させちゃったのでは?
少々遅れても良いから、待っているべきだった。
杖をついてさえいなければ、階段ダッシュしたのに…。
と、後悔しても時既に遅し。
「何回ですか?ルトリアさん」
「えっ、は、はい…。五、五階です…」
「そうですか。俺は六階なんですよ。お宅の事務所の所長さんにお話がありましてね」
「は、はぁ…」
事務所の所長さんなんて、俺も滅多に会わないのに。
「それとあなた、足が悪いんだから、走らない方が良いですよ?アイドルは身体を大事にしないと」
「そ、そうですね…。済みません…」
「『frontier』は俺達も結構出資しているので、ボーカルの体調不良で解散、なんてことになったら嫌ですからね」
「は、はい…。ごめんなさい…」
「うふふ。気にしないでください」
…どうしよう。
…怖い。
ってか、聞いて良いかな?「あなた結局何者なんですか?」って。
聞きたいけど、聞かない方が良い気がする。
あと、もしかして俺達に時折ゴスロリ服を着させるのは、あなたですか?
あれ、切実にやめて欲し、
「ところでルトリアさん」
「ふぁっ!?」
「あなた、よく生きてましたね。今度一杯奢らせてくれません?」
「…!?」
よ、よく生きてましたねって?
一杯おご…え?
女王陛下に奢ってもらう趣味はないんですが?
「あの…俺、飲めなくて…」
しどろもどろになりながら、俺は必死に断った。
すると彼は、残念そうに、
「そうですか…。あなたとは、良いお酒が飲めると思ったんですけどね…。裏切られた者同士…」
はい?
最後の方、よく聞こえなかったんだが…。
「まぁ良いでしょう。俺が闇に惹かれたように、あなたは光の方に惹かれた。それだけの話です」
「は、はい…?」
「…ところでルトリアさん、あなた今、『この人、何者なんだろう?』とか思いましたよね」
「!?」
こ、この人…読心術でも使えるのか。
それとも、俺の顔に出ていたのだろうか。
「良いでしょう、お答えしますよ。俺は『frontier』の大ファンであり、間接的にあなたの上司であり、そして…」
「そ…そして?」
彼の眼光が、きらり、と光り。
そして、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
「…うふふ。やっぱり…な・い・しょ♪」
「えっ…」
「それを言ったら面白くないでしょう?あなたは光の側の人間ですしね…」
…何それ。
そこまで勿体ぶっておいて…どうせなら最後まで言ってくれれば良いものを。
余計に気になる…と思っていると。
ようやく、エレベーターが五階に到着した。
扉が開き、俺はくるりと振り向いて、彼に頭を下げた。
「あの…それじゃ、また」
「えぇ。また会いましょう。次のライブででも」
あ、やっぱり…。いつも来てくれてるよね。この人…。
ありがとうございます。
感謝の意を込めて、俺は再度一礼して、それからエレベーターを降りた。
俺が降りると、ゆっくりと扉が閉まり、にこにこと手を振る彼の姿も見えなくなった。
…ほっ。
もうあと二分も彼と一緒にいたら、あの人のフェロモンにやられるところだった。
危ない危ない。
でも、何とか会議には間に合いそうだし…良かった。
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