Music of Frontier

ただ音楽が好き、とか。

音楽で誰かに勇気を与えたい、とか。

そんな崇高な理由で、音楽を志した訳じゃなかった。

エルが音楽の道を選んだきっかけは、「自分を馬鹿にした奴らを見返してやりたい」という、実に子供じみた意地だった。

動機はかなり不純だが、それでもエルの意志は固かった。

同時に、エルのことを馬鹿にする兄弟や、露骨に愛情差別してくる両親に、心から嫌気が差していた。

もうこの家族のもとにはいたくない、という気持ちが強かった。

それに、エルの通信簿を見る度に、「お前は頭が悪いから、もう中卒で働け。高校に行かせる金が勿体ない」なんてグチグチ言われていたのも、そろそろ腹が立っていた。

高校行かせる金も惜しいなら、五人も製造すんなよ。

スポーツしか取り柄のない兄貴は、スポーツ専門の私立高校に行かせた癖にさ。

だからエルは、「そこまで言うならじゃあ中卒で良いや」とばかりに、中学三年の秋、エルは「高校には行かない」と両親に宣言した。

あのときの両親の顔を思い出すと、今でも笑えてくる。

あれっだけ、散々「お前は中卒で良い。金が勿体ない」と言いまくってた癖に。

本当に中卒で良いと言ったら、猛反対された。

「お前なんか、せめて高校くらい出ないと話にならない」とか。

「そんな甘い考えで、社会に出てやっていけると思ってるのか」とか。

甘い考えも何も、最初に中卒で良いって言ったのは自分だろうがよ。

いざ本当に高校行かないとなったら、何でいきなり手のひら返すんだ。

結局、エルを攻撃する口実なんて何でも良いんだろ。

「大体高校も行かずに、何処で働くつもりなんだ」

「帝都に行ってフリーターをやる」

「フリーターなんかやってどうするんだ」

「音楽をやる。バンドを組む」

「お前みたいな世間知らずが、いきなり帝都に行ってやっていけるはずがないだろう。どうせすぐ帰ってくるだけだ」

「大体音楽なんて、馬鹿馬鹿しい。いつまで子供のような夢を見ている」

「もっと堅実な道を選べ。今は分からずとも、十年たてば親の言ってることが正しかったと分かる日が来る」

等々。

不毛かつ無意味なやり取りを、延々と繰り広げた。

あのときほど、両親の毒舌が冴え渡った日はない。

両親だけじゃなくて、隣の部屋で聞き耳を立てていた兄弟達にも、散々馬鹿にされた。

「元々馬鹿だったエルーシアが、いよいよ血迷ったことを言い始めたw」

「やめとけやめとけ。どうせ泣いて帰ってくるのがオチ」

「今謝っとけば学費出してもらえるかもよw」

「帝都に上京してバンドってw漫画かよw」

「一生泣かず飛ばずで終わる奴じゃんw」

等と、盛大に草を生やされた。

両親も、散々中卒で良いと言ってた手前、

今更になって、「中卒で良いなんて本気で言ってる訳じゃない。ちゃんと高校に行ってくれ」とは言えなかったようで。

結局、両親は引っ込みがつかなくなったのか。

連日に及ぶ言い争いの結果。

「ならもう勝手にしろ。お前みたいな親不孝者はもう知らん。出ていくのは良いが、二度と帰ってくるな」と絶縁宣言。

言われなくても二度と帰りたくない家だったので、エルは喜んで、中学を卒業すると同時に家を出た。

そして、宣言通り、あれ以来一度も帰っていない。