Music of Frontier

とは言っても、ミヤーヌみたいに、何かの楽器を習わせてもらった訳じゃない。

音楽に興味を持ったエルは、音楽教室に通いたい、と思った。

ピアノでも歌でも良い。エレクトーンでもフルートでも何でも良い。

今思えば、ミヤーヌみたいに純粋な気持ちで音楽をやりたかった訳じゃなくて。

ただ、他の兄弟にはない、エルだけの特技を見つけたかっただけなのかもしれない。

動機はともあれ、「音楽やりたいなぁ」と思ったエルは、両親に頼み込んだ。

音楽教室に通わせて欲しい、と。

…ここまでの話を聞けば、こんなときうちの親が何て言うか、もう分かるよな?

当然、答えはノーだった。

しかも、ただ「ダメ」と言われた訳じゃない。

散々馬鹿にされた上での、「ダメ」だった。

「よりにもよって、音楽なんて!馬鹿馬鹿しい!」とか。

「そんな下らないことの為に使う金なんか、一銭もあるか!」とか。

「音楽なんてやって何になる?何の役にも立たない!」とか。

「そんなことしてる暇があれば勉強しろ。だからお前は馬鹿なんだ。情けない」とか。

等々、散々に罵倒され、エルがどれだけ馬鹿で我が儘な金食い虫であるかを、延々とグチグチ罵られた。

音楽教室に行かせてくれって言っただけで、この反応だからな。

ミヤーヌのところとは大違い。

これには、さすがのエルも涙目だった。

そこまで言われるとは思ってなかった。

そりゃ、二つ返事でOKされるとは思ってなかったけどさ。

断るにしても、もうちょっと言い方ってもんがあるだろうよ。

五人も兄弟がいて、確かにうちは裕福じゃなかっただろう。習い事なんてさせる余裕はなかったのかもしれない。

だからってさ。二人して、そんな風に言うかね?

しかも、それ以来エルは一度も両親に同じことを頼まなかったのに、両親はしばらくそのことを蒸し返しては、エルのことを罵った。

自分の息子が、音楽なんて下らないことの為に金を使って欲しいと頼んだことが、余程許せなかったと見える。

兄弟は兄弟で、「よりにもよって音楽教室w何の役にも立たねぇw」と、馬鹿にしてくるし。

あれ以来、テレビコマーシャル等で小さい子達が歌ったり踊ったりする場面を見たら、エルに向かって「ほら、お前が好きなことやってるぞ。一緒にやってこいよw」なんてからかわれるようになった。

そんな下らない煽りをするおめーの方が、よっぽど幼稚臭ぇよ。

と、今では思うが、あの当時、エルは悔しくて堪らなかった。

エルが唯一得意な音楽を、「音楽なんて、何の役にも立たない下らない趣味」だと馬鹿にされたことが。

エルなんか、所詮何も出来ない我が儘な金食い虫だと言われたことが。

何もかも悔しくて、そしてそれ以上に、言い返せない自分に腹が立った。

もう、親に愛されたいとは思わなかった。

いつか、絶対、見返してやる。

お前達が散々馬鹿にした音楽で、エルは自分の価値を見つけてみせる。

あのとき、エルは音楽で生きていくことを決めたのだ。