Music of Frontier

どんな人間でも、取り柄の一つはあるもんだとよく言われるが。

陰キャで馬鹿で、要領悪い運動音痴だったエルでも、それは例外ではなく。

これでも、エルには取り柄が一つだけあった。

それが、音楽だった。

褒められるところなんて、虫眼鏡で探してもなかなか見つけられないエルでも。

それでも音楽だけは人並みに…ちょっと自惚れて良いのなら、人並み以上に才能があった。

そうでなきゃ、音楽で食っていこうなんて思わない訳だが。

走らせれば遅いし、計算させれば両手がなきゃ引き算も出来ないエルでも、歌を歌わせたら、これが意外とよく歌うのだ。

そりゃ、勿論ルトリーヌほどの美声ではない。

エル以上に歌が上手い人なんていくらでもいるが、少なくとも歌の才能だけは、兄弟の中でもピカ一だった。

いつも溜め息をつかれていた通信簿でも、音楽だけは5だった。

それがエルにとっては誇りだったのだが、両親にとってはそうではなかった。

音楽や図工は成績のうちに入らないと思っていた両親は、エルの音楽の才能を、才能として見ていなかった。

無駄な長所は、長所のうちに入らない。

両親にとって、音楽なんて科目は、生きていく上で何の役にも立たない、お遊びのような科目だった。

まぁ、言わんとすることは分かる。

大抵の親は、自分の子供の通信簿で、算数と音楽、どっちが上の方が良い?と聞かれれば。

算数、と答えるのが普通だろうから。

算数と音楽だったら、そりゃ算数が出来た方が良いよなぁ?

確かに、音楽なんて生きていく上で何の役にも立たんだろ、と言われれば言い返す言葉もない。

でも、エルに言わせれば、算数だって理科だって、生きていく上で本当に必要かどうか聞かれたら、怪しいと思うんだけど。

図形の面積とかさ。分数の掛け算とか。生きていく上で、ちゃんと役に立ってるか?

少なくとも、目に見える形で「あー台形の面積の公式、覚えといて良かった!」と思うことが、日常生活であるか?

あんまりないだろ。そんなこと。

なんて言うと、また「口答えした」と言われるから、言わないけどさ。

大体ね、学校で習うことなんて、大抵がそんなもんだよ。

役に立つか立たないかなんて、そんなのその人次第だもん。

役に立つときは立つし、役に立たないときは立たないよ。

少なくとも、エルは小中学校で習った音楽が、今でも役に立ってる。

それが事実ってもんだ。誰にも分かってもらえずとも。

みそっかすなエルでも、歌だけは得意で、音楽だけは成績も良かったから、エルは自然と、音楽に興味を持つようになった。

ミヤーヌにとって、音楽の世界が生き甲斐だったように。

エルにとっても、音楽は希望だった。

自分という存在。出来損ないの自分に…唯一、価値を与えてくれるもの。

それが、音楽だった。