Music of Frontier

エルは、確かに他の兄弟ほど愛されてはいなかった。

両親には、愛情差別をしているつもりはなかったんだと思う。あくまで兄弟全員、平等に育てているつもりだった。

でも、小さい頃、エルは愛情に飢えていた。兄弟と同じだけ愛されたいと思っていた。

今でこそ、五人兄弟の真ん中ともなれば、多少歪んでしまうのも無理ないかな~とか思うのだが。

とはいえ、差別されていたのは愛情だけで、生活していくには困らなかった。

別に、エルだけ食事を抜かれることはなかった。

エルが要領悪いせいで、おやつを食べ損なうことはあったけど、でも食事はちゃんと食べさせてもらっていた。

衣服もちゃんと与えてもらった。まぁ…ほとんど兄のお下がりだったけど。

五人兄弟の真ん中ってのは、案外辛いポジションだ。

持ち物や衣服の大半は、兄のお下がりを宛がわれるのだから。

それなのに、下の弟は新品を買ってもらっていた。

兄のお下がりをエルがもらって、更にそのお下がりを弟にあげる頃には、大抵のものはもうボロボロになっていたから。

仕方ないから、それは捨てて、弟には新しいものを与える。

そんなの不公平だ、とエルは抗議したが、当然聞き入れられることはない。

「またエルーシアが我が儘言ってる」とスルーされるか、それでもしつこく絡んだら、頭に拳骨を食らった。

両親からしてみれば、お下がりは嫌だ、せめてお下がりしか与えられないなら、弟にもお下がりを与えるべきだという、子供からしてみればごく当たり前の言い分でも。

両親にとっては、単なる我が儘にしか聞こえなかったのだろう。

でもなぁ。そりゃ気にしない子は気にしないだろうけど、毎回そういうことが続いたら、子供心に不満を抱くよなぁ。

何だって、兄貴が使ってた中古品より、自分の為に新品を買ってもらった方が嬉しいに決まってる。

少しくらいならお下がりでも良いけどさ。何もかも全部なんて嫌だよ。

自転車だって、エルはお下がりなのに、弟は新品だったからな。

まぁ、両親にとっては、大して可愛くもないエルの為に、新品を買うなんて余計な出費だったんだろう。

だが…逆に言えば、お下がりなら与えてもらえた訳だ。

「お前は可愛くないなら、何もあげない」と言われた訳じゃない。

理不尽に怒られはしても、殴られたことはないし。

お下がりだということに目を瞑れば、一応子供に必要なものは全部与えてもらっていた。

そういう点では、エルは幸せだったのかもしれない。

本当に酷い家庭だったら、お下がりすらもらえず、殴られたり、食事を抜かれたりしていただろうから。

そう思って自分の気持ちを慰めようとしたが、それでもやっぱり辛いものは辛かった。

これでも、両親に愛されたくて、色々と頑張ってみたりはしたのだ。

だけど、その努力が報われることはなかった。