Music of Frontier

今となって思えば、エルの母親は多分、エルのことがあんまり可愛くなかったんじゃないだろうか。

なんか、エルはちっこい頃、上の二人の兄姉とは違って。

妊娠中のつわりは酷いし、生まれてくるときもえらく難産だったし。

生まれてからも夜泣きが超激しくて、風邪ばっかり引くし。

要するに、めちゃくちゃ手のかかる赤ん坊だったらしい。

そんな話を、母は恨み節でもぶつけるかのようにエルにグチグチと愚痴った。

いやそんなん言われても、知らんがな。というのがエルの本音であった。

エルは別に、母を困らせてやりたかった訳じゃないのだから。

しかし、エルが物心つく頃には、母の中では完全に、エルは「手のかかる子」扱いだった。

知らないよそんなの。エルに意志があった訳じゃないのに。

なんて文句を言おうものなら、「すぐそうやって口答えする。やっぱりお前は可愛くない」と逆ギレ。

全くもって理不尽極まりない。

エルの後に生まれた妹は、兄や姉と同じく手のかからない子供だったから。

余計に、エルだけが際立って、手がかかるように思えたのだろう。

そりゃ確かに面倒臭かったかもしれないけどさ。でも知らないよ、そんなの。

好きで難産させた訳じゃないし、好きで風邪ばっか引いたんじゃないっての。

でも、母には通用しなかった。

母にとってエルは、生まれたときから手のかかる子だった。