Music of Frontier

「そんなこと…されたって…」

うんと言えるはずがない。俺だって、人生が懸かってるんだ。

ちょっとそこまでお使いしてきてくれ、なんてお願いじゃないんだ。

帝国騎士になんて、最近ではもうなりたいとは思っていなかった。

でも俺には、帝国騎士になる以外の未来はない。

今までずっと、帝国騎士になる為だけに生きてきたのだから。

それなのに、ここで帝国騎士になる未来を奪われたら。

俺は、生きる理由を失ってしまう。

厳密に言えば、帝国騎士官学校を卒業しなくても、帝国騎士団には入ることが出来る。

帝国騎士団には、貴族じゃなくても一般国民でも入団可能だ。

だから俺がこのまま貴族をクビにされ、一般国民に落とされたとしても…帝国騎士にはなれる。

なれるけど、でも上の役職に就くことは出来ない。

帝国騎士団で、部下を指揮する立場になる為に訓練と勉強を続けてきたのに。

そんな俺が、帝国騎士団で上官に顎で使われるなんて耐えられなかった。

違う。そうじゃない。上官に顎で使われるのが嫌なんじゃない。

俺は、今まで血の滲む思いで頑張ってきたのに、今更それをなかったことにされるのが許せないのだ。

大体、俺は何も悪いことなどしていないのだ。

それなのに、どうして俺が未来を潰されなければならない?

どんなに頼まれたって、了承出来るはずがない。

しかし。

俺は、神妙な顔をした理事長から、とんでもなく恐ろしい事実を聞かされた。

「…残念ながら、ここで君が我々の申し出を断ったとしても…君は、もう帝国騎士官学校にはいられないんだ」

「…どういう、ことですか」

理事長は、やりきれないという風に頭を振った。

「それどころか、君はもう…帝国騎士団に入ることは出来ない。その未来は永遠に閉ざされたと思った方が良い」

「だからっ…どうしてですか!」

例え帝国騎士官学校を退学させられても、貴族でなくなったとしても。

帝国騎士団に入団する権利を失った訳ではない。

そのはずじゃないか。

それなのに。

「…君の、その左足…。もう、治らないそうだ」

「…え…」

「リハビリしても、もう杖なしでは歩けないらしい。その足では…帝国騎士団の入団資格は得られない」

俺は、痛みを堪えて上半身を浮かせ、包帯をぐるぐると巻かれた左足を見た。

…治らない?この足が?

「足を捻った状態で、重い脚立やパネルの下敷きにされた…。それでも、すぐに処置すれば何とかなったかもしれないそうだが…。そのまま二時間以上放置されたこともあって、もう…現代医学ではどうにも出来ないと…」

「…そ…ん、なの…」

俺の中に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

痛みもあったが、それ以上に怒りの方が強かった。

「そんなの、俺の責任じゃない…!あなた達のせいじゃないですか!」

相手が理事長や学園長であることを忘れ、俺は思わずそう怒鳴り散らしていた。