Music of Frontier

そして、その先生の矛先が、ある日俺に向いた。

先生がホームルームの為に教室に来たとき、偶然俺がクラスメイトに「ニューハーフ」呼ばわりされているところに出くわしたのだ。

クラスメイトは先生を見て、「ヤバッ」という顔をした。

さすがにこれは怒られると思ったのだろう。

しかし、先生は怒らなかった。

不思議そうな顔をして、「何でコイツがニューハーフなんだ?」と聞いた。

俺をニューハーフ呼ばわりしたクラスメイトは、正直に答えた。

「こいつ、ピアノ習ってて、しかも音楽部にまで入ってるんです」と。

俺は、先生が「それの何が悪いんだ?」と言ってくれることを期待した。

しかし。

先生はゲラゲラ笑いながら俺を指差し、「男の癖に?そりゃ確かにニューハーフだな!」と抜かしやがった。

こうなれば、クラスメイトはもう悪びれる必要すらない。

担任教師公認なのだから、俺の味方をする人間は一人もいない。

俺は未だにピアノなんか弾いて、しかも音楽部になんて入ってる「ニューハーフ」、「オカマ」になった。

皆が釣られて、ゲラゲラと笑うのが嬉しかったのか。

先生も調子に乗って、それからというもの俺を名前で呼ぶことはなくなった。

代わりに、クラスメイトと同じく俺を「オカマ」や「ニューハーフ」と呼び、しょっちゅうからかってくるようになった。

クラスメイトにからかわれるならともかく、まさか教師からそんな風にからかわれるとは思っていなくて、俺は面食らった。

子供じゃないんだから。

俺はそう思ったのだが、しかし先生は、自分が「面白いこと」を言っていると思い込んでいた。

何せ、それを言えばクラスメイトがどっと笑って、「先生本当に面白いなぁ」という目で見てくれるのだから。

そりゃ、良い気分にもなるだろう。

酷いことを言っているのに、俺に対する罪悪感も全くなかった。

本人からしてみれば、あくまでこれは「冗談」で、本気で言っている訳じゃない。

だから俺が不機嫌な顔になって、唇を噛み締めると。

ミヤノは冗談の分からない奴だ、として顰蹙を買った。

教師がそんなことをするものだから、クラスメイトも面白がって、同じことをした。

しかも、教師もやっているのだから、生徒がやっても怒られない。

絶対怒られることはないのだから、俺に対する嫌がらせは、楽しくて仕方ない便利な娯楽だったことだろう。