Music of Frontier

自分で言うと、自慢にしか聞こえなくて嫌なんだが。

俺はあの当時、ピアノの腕前は学年で一番と言っても過言ではなかった。

何せ、自分の親がピアノ教室の先生なのだから。

母は毎日俺にレッスンをつけてくれたし、時には宿題そっちのけで練習に没頭することもあった。

俺自身、宿題をするより、外でサッカーするより、ピアノを弾いている方が楽しかった。

ピアノの置いてある部屋は防音設備を施していたから、少々遅い時間になっても、遠慮なく練習出来たということもあり。

他の子達とは、練習量が桁違いに多かった。

そう思えば、俺の方が上手なのは当然とも言える。

部屋を防音仕様にしてまで、ピアノに熱を入れる家庭は、そうそうある訳ではなかろう。

初めて見る楽譜でも、それなりに流暢に弾きこなした俺の後で、その女の子は、酷く辿々しく弾き始めた。

誰がどう聴いても、俺の方が上手なのは明白だった。

その女の子は、何回も音を間違え、外し、そもそも曲としての体を為していなかった。

これには、音楽の先生も可哀想になったのだろう。

女の子に最後まで弾かせず、「もう良いから」と途中で止めた。

気の毒な女の子は、可哀想に、恥ずかしさのあまりピアノの前に座って大泣きした。

別に泣くほどのことではないだろうと思うが…。

女の子は音楽の先生に宥められ、結局伴奏は俺がやることに決まった。

…問題は、その後だ。

クラスメイトは皆、女の子の伴奏で歌いたかったのに。

しかも、皆のアイドルであった女の子を泣かせたのだ。

俺はクラスメイトから、特に男子生徒から強く批難された。

いや、俺に言われても…。

俺が自ら伴奏に立候補した訳じゃないし、決めたのは音楽の先生だ。

何より、ピアノの上手い下手は本人の問題であって、俺がどうにか出来ることではなかった。

俺はただ、弾けと言われたから弾いただけだ。

それなのに勝手に泣かれて、「泣かせた」と責められても、俺にはどうすることも出来ない。

思い返せば思い返すほどに、理不尽極まりない。

けれど、あの一件で、俺がクラスの鼻摘み者になってしまったのは変えられない事実だった。