Music of Frontier

その日の出来事は俺にとってショックだったが、でも、それだけで俺の音楽への熱が冷めた訳ではない。

音楽の授業のみならず、学芸会の合奏や合唱で、俺はいつも全力で歌ったし、演奏した。

その度に俺は、陰でくすくす笑われたし、指を差されたこともある。

好きなことを、全力でやってるだけなのに、どうして馬鹿にされなきゃならないのか、俺には意味が分からなかった。

どうせ本気でやっても馬鹿にされるだけなのだから、俺も意地になって本気でやらなきゃ良いのに。

他のクラスメイトみたいに、面倒臭そうに適当にやるくらいが、目立たなくて丁度良い。

でも、大好きな音楽をいい加減にすることは、どうしても出来なかった。

そして、そんな俺に…クラスで孤立するきっかけになった、決定的な出来事が起こる。

あれは…忘れもしない、小学校五年生のときの、合唱大会。

俺の通っていた小学校は、高学年になると、合唱の伴奏者をクラスの中で選ばなくてはならなかった。

大体どのクラスでも、一人か二人は、ピアノを習っている生徒がいた。

うちのクラスでは、俺と、それからもう一人、女の子がピアノを習っていた。

その女の子は、五年生の学年の中で一番可愛くて、男子の中では一番人気だった。

俺は別に彼女のことを何とも思っていなかったのだが、当時同じクラスのほとんどの男子が、彼女のことを好きだったらしい。

まぁ、確かに可愛らしい顔立ちはしていたが…今はどうしているやら。

それはともかく、俺のクラスでは、俺と、その女の子しかピアノを弾ける人がいなかったから、二人のうちどちらかが伴奏をすることになる。

で、どちらが弾くか…という話だが。

クラスメイトは皆、特に男の子は…俺じゃなくて、もう一人の女の子に弾いて欲しいと思っていた。

男子生徒にしてみたら、野郎のピアノより、可愛い女の子の伴奏で歌いたいと思うのは当然のこと。

そもそも俺は、当時ピアノを習っていることに対して、男子生徒からよくからかわれていた。

「男の癖にピアノとかww」って。

どうも、ピアノやバレエなどといったお稽古事は、女の子がやるものであって、男がやるものではないと思っていたらしい。

確かに、子供のピアノ人口は女の子の方が多いのだろうが…。

母は、「男の子の方が手が大きくなるから、ピアノを弾くには向いてるのよ」とか、「男の人でもピアニストになってる人はたくさんいるのよ」とか、しょっちゅう言っていたから…。俺はあまり、男だから、女だからという議論はピンと来なかった。

で、結局伴奏をどちらがやることになったのか、という話だが…。

結論から言うと…伴奏の担当は、俺になった。

もし投票制で選んだなら、間違いなく女の子が選ばれていただろう。

でも、投票制じゃなかった。

あろうことか、伴奏者を決める際、音楽の先生は俺達二人を皆の前でテストしたのだ。

「二人共、ちょっとこれ弾いてみて」と楽譜を渡して、その場で弾かせた。

わざわざ皆の前でやることはないだろうと、今となっては思うが…。

ここまで言えば、もう顛末は分かるだろう。

要するに、その女の子は、俺よりもずっと下手くそだった訳だ。