Music of Frontier

意識を取り戻して、まず目に入ったのは真っ白な天井だった。

第二帝国騎士官学校の医務室の天井ではない。

…あぁ、そうか。俺…病院に。

「…っ!」

のろのろと身体を起こそうとしたが、左足に激痛が走り、俺は思わず呻き声をあげた。

…駄目だ。起き上がれない。

看護師がベッドの上で悶絶している俺に気づき、大丈夫か、とか、痛むか、とか色々聞いてきた。

あんまり大丈夫ではない気がしたが、俺は適当に生返事を返していた。

大丈夫じゃないし痛いけど、でもこの怪我だったら…しばらくの間は、学校に帰らなくても良い。

そう思うと、ホッとしている自分がいた。

実際は、「しばらくの間」どころではなかった。

しばらくどころか、俺はもう永遠に、あの学校に帰ることはなかったのだ。

でもそのときの俺は、まだ自分はあの学校に帰れると思っていた。

まだ、自分は帝国騎士団に入れると。

それが歪んだのは、目を覚ましてから十分足らず。

不意に病室に入ってきたその人物を見て、俺は驚きのあまり目を見開いた。

現れたのは、帝国騎士官学校の理事長と学園長、そして俺の担任教官だった。

…学園長までは、まだ分かる。

でも、何で理事長まで…?

そのとき俺は、不意に嫌な予感がした。

聞かない方が良い。この人達の話を聞いたらいけない。

そう思った。

だが、俺には逃げることが出来なかった。

「…貴殿が、ルトリア・レキナ・マグノリア君か」

神妙な顔をした理事長が、重々しく口を開いた。

「…はい」

俺は視線をさまよわせながら頷いた。

担任教官が真っ青な顔をしていることが、妙に気になった。

「怪我の具合はどうだ?」

「…大丈夫です」

とても大丈夫とは言えなかったが、大丈夫じゃないです!とも言えなかった。

仕方なくそう答えると、理事長は小さく頷いた。

「それは良かった。しかし…ルトリア君、君にどうしても…伝えなければならないことがある。聞いてくれるだろうか」

「…」

このとき、嫌です、と答えていれば。

俺の運命は変わったのだろうか?

俺は何も答えなかった。良いと言っても嫌だと言っても、俺の運命が変わったとは思えない。

「…我々は、君を退学処分にすることにした」





…最初にそれを聞いたとき、俺は驚きのあまり、言葉が出なかった。