Music of Frontier

…姉と、最後に会ったとき。

姉の顔は憤怒に満ち、その目には憎悪がありありと滲み出ていた。

アイドルなんてやめろ、帝国騎士団に入れ、と言った姉。

今は…真実を知っている姉。

どんな気持ちでいるだろう。真実を知った今、自分がどれだけ検討違いなことを言っていたかを思い知って。

聞くまでもない。応接間に通された姉は、憔悴しきった顔をしていた。

俺が杖をついて部屋に入ってくるのを見て、姉は罪悪感に押し潰されそうな顔をした。

「ルトリア…。その足、本当に…」

「…本当ですよ。嘘だと思いました?」

「…嘘であって欲しいと思っていた」

…そう。

俺だって、嘘であってくれたならと、何億回も思ったよ。

でも嘘じゃない。これが現実なのだ。

ならば、この受け入れ難い現実を、受け入れるしかない。

簡単な道のりじゃなかったよ。

「…ということは、やっぱり聞いたんですね。俺に何があったのか」

「…あぁ」

…まぁ、そうでもなきゃわざわざ訪ねてこないよな。

「それで?真実を知ったあなたが、何の用ですか」

「…謝って済むことじゃないと分かっている。でも…謝らせて欲しい」

やっぱり、エミスキーやラトベルと同じか。

「…あなたの自己満足の為に?」

「…済まない、ルトリア…。本当に、申し訳なかった。私は…何も知らず、お前に…」

「…」

…不思議だな。

エミスキーとラトベルに頭を下げられたときは、腹が立った。

でも、何故か姉が頭を下げるのを見たとき。

俺は、憐れだと思った。

腹は立たなかった。ただ、憐れだった。

思えば、姉は本気で俺のことを思っていてくれたのだ。

俺に意地悪をしてやろうとした訳じゃない。

いつだって、姉は俺の為を思って怒り、そして憎んだ。

ただ、それが検討違いだったというだけで。

姉は、真実を知らなかった。

知っていれば…きっと…俺の味方をしてくれていたはずだ。

だから、腹が立たなかった。むしろ、俺の方こそ謝りたいくらいだった。

「…別に怒ってないですよ。あなたには」

俺がいじめられてたとき、味方してくれなかったのは悲しかったけど。

でも、だからって姉を憎もうとは思わなかった。

どうしても憎むことは出来なかった。

「あなたは、ただ…知らなかっただけだ。真実を…何も」

「…いいや、私が悪い。私は確かめるべきだったんだ。お前が学校を退学させられるようなことをするはずがない。もっと早くに、疑うべきだった…」

それは…無理だったんじゃないかな。

今だから、そんなことが言えるのだ。

あのときは、俺が退学にされた屈辱で一杯で、疑う余裕なんてなかったはず。

全ては、結果論でしかない。

「知っていれば…お前があんな目に遭っていたことを、知っていれば…私はどんな手段を使ってでも、お前を守ろうと…」

「…分かってますよ」

今更言っても、詮ない事だということも。

「お前にどれだけ辛い思いをさせたかと思うと…私は…」

「…えぇ。辛かったですよ…本当に」

特に、家を追い出されてから入院していた二年間は。

本当に、死にたいくらい辛かった。

今思い出しても気分が悪くなる。

だけど…それでもやっぱり、姉を責める気にはなれなかった。