Music of Frontier

「…何なんです?これ」

「…」

これには、ユーリアナさんも苦笑い。

いや、苦笑いで済ませて良い事態じゃないから。

飲食店だったら、客にコーンポタージュを鍋ごとぶちまけちゃったくらい大変なことだから、これ。

「…ユーリアナさん、あなた…何考えてるんですか?」

我が『frontier』のマネージャー、ユーリアナさんはとても優秀なマネージャーさんである。

彼女の頼りになることと言ったら、最早『frontier』の六人目のメンバーと呼んでも過言ではないくらい。

それなのに、今日は一体どうしたと言うのだろう。

用意されたライブの衣装が。

…全員、ゴスロリのコスプレ衣装だなんて。

「…成程、分かりましたユーリアナさん。あなたお疲れなんですね?無理もありません。最近俺達の不在の埋め合わせに、超絶忙しかったんですもんね。大丈夫、間違いくらい誰にでもありますよ」

ただ…間違えるにしても、もう少し間違え方があったんじゃないかとは思う。

何でよりにもよって、ライブ衣装をこんなゴスロリ衣装と間違えるのか…。

「…えっと、ルトリアさん…。私、別に間違えてはいませんよ?」

「…」

…何だって?

これが間違いでないなら、何だと言うのだ。

「その、今日のイベントは…ハロウィンライブなので」

「…」

「出演者は、全員ハロウィンの仮装をして演奏することになってるんです」

…そうだったのか。

成程、それで合点が行った。今日のイベント会場で会う人、皆奇怪な格好をしていたのだ。

あぁ、あの人達、きっと徹夜明けなんだ…と思っていたが、そうではなかったらしい。

そうか、ハロウィンか。ハロウィンの仮装なのか。

納得した。

でも、俺達の衣装が「コレ」であることに関しては、全然納得出来ない。

「…何で俺達だけゴスロリハロウィンなんですか!?他の出演者は、もっとシンプルな格好してるじゃないですか!」

さっきすれ違った他の出演者は、仮装と言っても精々、黒いマントつけてるだけ、とか。

髑髏の仮面をつけてるだけ、とか。

トンガリ帽子を被ってるだけ、とか。

そんな、可愛らしいワンポイント仮装だった。

それだけなら、俺だって納得出来る。

しかし、俺達の目の前に用意された、この衣装は何なのだ。

何て言うか…ガチ勢じゃないか。

頭の先から爪先まで真っ黒な、ゴリゴリの本格メンズゴスロリ衣装。

何これ。

「まさか、まさかユーリアナさんの趣味って訳じゃないですよねっ?」

もしユーリアナさんにこんな趣味があったなら。

理解するのに、十年はかかる自信がある。

「私の趣味じゃないんですが…」

ユーリアナさんの趣味じゃない?

じゃあ誰の趣味?

「…確か、前もこんなの着せられたよな…。写真集のときに」

ゴスロリ衣装をじっと見ながら、ルクシーがそう呟いた。