Music of Frontier

俺は知るよしもないことだったが。

俺が乗った脚立は、最悪なことに、開き止め金具が壊れていた。

おまけに、派手に倒れたせいで、壁沿いに置いてあった説明会用の分厚いパネルやなんかも、一緒に倒れた。

結果、俺はそれら全ての下敷きになった。

倒れた拍子に意識を失っていたから、俺は分からなかったが。

教官達は、色んなものの下敷きになった俺を見て、しばし呆然と立ち尽くし。

俺が動き出さないことに更に動揺して、どうしたら良いかとあたふたしていた。

誰も救急車を呼ぼうとはしなかった。

彼らの頭にあったのは、ただ一つ。

「このことが外にバレたら、自分達がメディアに吊し上げられる」。

これだけだった。

結局俺は、下敷きになったまま10分以上放置され、ようやく引きずり出された。

頬をぺちぺちと叩いたり、水をかけたり、肩を揺さぶったりして、教官は俺を起こそうとしたが。

俺は目を覚まさなかった。青ざめた顔をして、意識を失ったままだった。

俺の左足、膝から下が、有り得ない方向に曲がっているのを見て、教官達は言葉を失っていた。

そのとき。

「うぐ…ぅ…」

俺はあまりの激痛に、苦しみながら意識を取り戻した。

経験したことのない痛みに、涙が滲み、脂汗が止まらなかった。

「お、おい大丈夫か」

教官の一人が俺の耳元に声をかけたが、返事などとても出来なかった。

これの何処が、大丈夫に見えるのか。

「な、なぁ…。やっぱり救急車呼んだ方が良いんじゃないか?」

「いや、でも…。生徒を怪我させたなんて知られたら、俺達が責められるぞ」

「そうだ。メディアにしつこく追いかけ回されるなんて御免だ」

「だからって…。もしこのまま死んだら、余計に大変なことに…」

「このくらいで死ぬはずないだろ。学校の医務室で事足りるはずだ。病院になんか連れていったら、俺達が何て言われるか…」

俺は自分の耳を疑った。

この期に及んで、こんな醜い責任の押し付け合いをするなんて。

しかも、俺が聞いていることを知りながら。

「ほら、大丈夫だ。しっかりしろ。な?」

何としてでも、大丈夫だと思い込みたいのか。

教官は無理矢理俺を起こし、立たせようとした。

乱暴に身体を動かされたせいで、有り得ない方向に曲がった足が、爆発するような痛みを発した。

「…!!」

あまりの激痛に一瞬息が止まり、目の前にチカチカと火花が散った。

それでも教官は無理矢理俺を起こそうとするのをやめなかった。

当然起きることなど出来るはずもなく、俺は力なく教官の身体を押し退けた。

この馬鹿が。見て分からないのか。

あまりの痛みに、このまま首を絞めて殺して欲しいと思ったくらいだった。

「駄目だ、どうしよう?」

「良いから、医務室に運ぶんだ」

どうあっても、教官達は俺を学校の外の病院に連れていく気はないらしかった。

俺はそのまま担架で医務室に運ばれた。

医務室の養護教諭が、事態の緊急性を感じて、病院に連れていってくれるかと思ったが。

養護教諭もまた、他の教官達と変わらなかった。

何とか、学校の中だけで解決したいらしく。

一目見ただけで重症だということは明らかなのに、気休めのように足に氷嚢を当てたり、湿布薬を貼るだけだった。

当然、そんなことで骨折が治るはずがない。

結局、俺はあまりの痛みに失神し、意識がなくなった。

その後、これはさすがに不味いと思ったのか、教官の一人が俺を車に乗せて、ようやく病院に運び込んだ。

俺が病院に辿り着いたのは、怪我をしてから二時間以上が経過してからだった。

それまで俺は、地獄のような痛みを味わい続けた訳だ。