Music of Frontier

「この報道によると、ルトリーヌって、何も悪いことしてないのに貴族クビにされた訳じゃん?で、今無実が証明された訳じゃん?じゃあ、帰れるんじゃないの?貴族に」

「…そうだな。ルトリアが貴族を追放された理由が、なくなったんだからな。帰ろうと思えば…帰れるんじゃないか?」

「ルトリーヌ、貴族に戻るの?そしたら『frontier』はどうなるんだ…?」

「…」

その問いに、答えられる者はいなかった。

ボーカルである俺がいなくなれば、『frontier』は事実上解散だ。

言うまでもない。

「…エル、やだよ。ルトリーヌ以外のボーカルでバンドすんの」

「俺だって嫌だよ。今更ルトリア以外をメンバーにするなんて…それなら、解散した方がマシだ」

「…黙って。そういうことは言わないで。気分が悪くなるから」

「…」

明らかにイラついたベーシュさんの声に、男二人は息を呑んだ。

「…ルトリアは『frontier』を辞めたりはしないもの。そんなはずない…。それじゃ、私は今度も失敗…」

「ベーシュ…?」

「…何でもない。ルトリアは辞めないよ、絶対」

「…そりゃ…俺だってそう信じたいけど…」

「こればっかりは…エル達には分かんねぇよ…」

この場にもし俺がいたら、「辞めたりしませんから!」と声を大にして言い、皆の心配を解消していただろうに。

俺はまさか、自分のいないところで三人がこんな会話をしているだなんて、思ってもみなかった。

すると、そこに。

「皆さん!」

『frontier』のマネージャー、ユーリアナさんが小走りに駆け寄ってきた。

「ユーリアナ…!どうした?」

「さっき連絡があって…。ルクシーさん、明日から来られるそうです」

「ルクシーヌが!マジか!良かった!」

ユーリアナさんは、この時点で何処まで知っていたのだろう。

あの事件の被害者だと知っていたのだろうか。

ただ事ではない事態になっていることだけは、彼女も分かっていたはずだ。

「ルクシーだけなの?ルトリアは…?」

「…ルトリアさんは…まだ、無理だそうです」

「…」

ルクシーは、俺より先に事情聴取地獄から解放されることになった。

俺も早く解放して欲しかったが、残念ながら俺はそう簡単に解放してもらえないらしかった。

「そうか…。とりあえず、ルクシーが戻ってくることは、素直に喜ぼう」

「…だな。ルクシーヌから、詳しいこと聞けるかも」

「…そうね」

「…ルトリアさんも、早く戻ってきてくれると良いですね」

「…」

誰も、何も言えなかった。

俺は、『frontier』を辞めるつもりなんてこれっぽっちもなかったと言うのに、仲間達は俺が戻ってくるのかどうかを、胃に穴が開くほど心配していたのだから。

端から見れば滑稽な話だったろうが、当事者である俺達にとっては、とても重要なことだったのである。