Music of Frontier

「有り難い申し出ですが…」

「…やはり、断るか」

「えぇ。俺はもう…貴族に戻るつもりはありません」

元々、姉以外の家族に執着なんてなかった。

ルクシーの家族のように、音楽活動に理解のある家族ならまだ良い。

けれど、うちの両親に限って、俺の音楽活動を認めるとはとても思えない。

『frontier』の活動を出来ないなら、貴族に戻る意味なんてない。

貴族としての権利と『frontier』のボーカルを続けること、どちらが大事かなんて…考えるまでもない。

元々家を追い出された時点で、貴族であることに対する未練はもうない。

一般人である方が、気楽で良い。

「…本当に良いのか?」

「えぇ。俺は貴族には戻りません」

「そうか…。少し安心したよ。貴殿が貴族に戻ってしまったら、『frontier』が解散して、ルレイアが悲しむところだった」

「…?」

はい?

「…ルレイアのことは良いから。ともかく、貴族には戻らないってことで良いんだな?」

と、三番隊隊長。

「はい」

「ま、気持ちが分からなくはないな。折角貴族のしがらみから解放されたのに、今更戻りたくはないだろ」

…それは…そうだけど。

あなたも貴族ですよね?多分…。

「そんなに名の売れたアイドルなら、金に困ることもないだろうし…。貴族に戻る理由もないわな」

「…」

金に…困るから困らないから、は特に問題ではないのだが。

俺の場合…手はつけてないが、学校からもらった莫大な口止め料もあるし…。

「分かった。裁判には関わらない、貴族にも戻らない、だな。では、そのようにしよう」

「これで終わりですか。取り調べは」

「残念ながら、そうはいかない。明日からもしばらく付き合ってもらうことになる」

…やっぱり、そうか。

そう簡単には解放してくれないつもりらしい。

「貴殿にとっては辛いだろうが…」

「…別に良いですよ。俺がいないことによる損失分は補填してくれるんでしょう?」

「勿論だ」

「なら、付き合いますよ」

「…感謝する」

逃げたくても逃げられないんだから、仕方がない。



結局、その後も、翌日も翌々日も。

俺は、思い出したくない過去の話を、根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。