Music of Frontier

帝国騎士団に入ることは出来ない。

だから、今更第二帝国騎士官学校に復籍しても、仕方がない。

「復籍はするが、帝国騎士団には入れないし、その足では、学校を卒業することも出来ない。故に…今度は学校から退学処分にされるのではなく、自主退学という扱いになるだろう」

「…自主退学…」

「いずれにしても退学することに代わりはないが、不正行為の罰として退学処分にされるより、足の障害の為自主退学の方が、貴殿の経歴は傷つくまい。気休めにしかならないだろうが…」

「…」

…確かに、気休めだ。

でも、「悪事を働いてクビにされた」よりは、「やむを得ない事情があって自分から辞めた」の方が、体裁は良い。

今更体裁取り繕って、どうにかなる訳でもないが。

「それから…もう一つ、貴殿には取り戻せるものがある」

「…もう一つ?」

「学校には戻れない…だが、実家のマグノリア家には、戻れるのではないか?」

「!」

俺はハッとして顔を上げた。

それは…俺も、考えていなかった。

「貴殿が家を追い出されたのは、学校を退学処分にされたことが原因だった。でも、その退学処分は無効だ。故に、貴殿が家から追い出されなけれなならない理由はなくなった」

「つまり、帰ろうと思えば、また貴族に帰れるんだよ、お前は」

騎士団長の言葉を、三番隊隊長さんがごく簡潔に言い直してくれた。

帰ろうと思えば…帰れる。

また…マグノリア家に。

貴族に。

「これに関しては、我々からもマグノリア家に口利きをしよう。貴殿の貴族権は、不当に剥奪されたのだから、復権の為に我々も尽力する」

「貴族ってのは無駄に体面を気にするからな。一度追い出した息子を家に戻すのは、嫌がるかもしれないが…そこは安心しろ。『ルトリアを貴族に戻せ』って書簡に俺達が署名したら、従わない訳にはいかんだろうからな」

「…」

…三番隊隊長さんの、言う通りだ。

マグノリア家の両親は、恐らく、真実を知っても俺を家に戻すことは躊躇うだろう。

今や俺は、両親の理想とはかけ離れた人間になっているのだから。

マグノリア家に戻ったって、帝国騎士団に入れる訳じゃない。

大体、あのプライドの塊である両親が、一度啖呵を切って追い出した息子に、「やっぱり帰ってきて良いよ、ごめんね」と言えるとは思えない。

でも…帝国騎士団から直接、それも隊長クラスの署名が入った書簡で、「ルトリアを家に戻せ」と言われれば…両親が従わないはずがない。

つまり…俺は、マグノリア家に戻れる訳だ。

また貴族として…生活することが出来る訳だ。

それは…一見、魅力的に見える申し出だ。

俺がもし…貴族としての利権に固執する、両親のような人間だったならば。

俺は、この申し出に飛び付いていただろう。

でも。

俺は最早、ルトリア・レキナ・マグノリアではなかった。

『frontier』の、ルトリア・レイヴァースなのだ。