Music of Frontier

そして、今に至る。





こんな話を、だらだらと喋り続けた。

気分の良い話じゃなかったし、特に帝国騎士官学校時代の話は、思い出すだけで憂鬱な気持ちになった。

多分、帝国騎士団長と三番隊隊長さんにとっても、そうだったのだろう。

二人共、特に三番隊隊長さんの方は、露骨に不機嫌そうな顔をしていた。

彼は、俺が話し終えるなり、不機嫌を隠そうともせず、舌打ちをした。

「…不愉快な話だな」

「あぁ…全くだな。帝国騎士官学校の腐敗も、目に余るものがある」

「…」

…同意だな。

これがこのルティス帝国で最高峰の教育機関だと言うのだから、救いようがない。

「…ルトリア・レイヴァース…。話は理解した。その上で…貴殿にも心から同情している」

「…そうですか」

「当然ながら、八年前の事件に関わった教員達は、全員裁きにかけられる。貴殿も被害者として、裁判に参加し、証言をする権利があるが…」

「俺は行きません」

きっぱりと、そう答えた。

裁判になんて、参加するつもりはなかった。

「俺はもう…関わりたくないんです」

「…そうだろうな。分かった。今日ここで得た証言をもとに、公平な裁判を行うことを約束しよう」

「ありがとうございます」

それで良い。

今更理事長や、当時の教官達の顔を見たくはなかった。

俺も見たくないし、あの人達も俺の顔なんて見たくないだろう。

「それから…話に出てきた、当時の学生寮のルームメイトや、クラスメイトについてだが…。貴殿にとっては教官達と同罪だろうが、残念ながら彼らに関しては…公的な場所で裁くことは難しいだろう」

「…そうでしょうね」

それは、分かっていたことだ。

彼らは教官達と違い、あの当時未成年だった。

何より、「いじめ罪」なんてものは存在しないのだ。

大体、事件そのものがもう十年前のことなのだ。

俺がいじめを受けていたという証拠もない。

「あのときいじめてましたよね?」と聞いて、素直に頷くような奴らじゃない。

そもそも、俺をいじめていたことさえ忘れているんじゃないだろうか。

騎士団長の言う通り、俺にとってはあの先輩達もクラスメイトも、教官達と同罪だ。

でも、彼らを裁くことは出来ない。

「…まぁ、個人的には…さっき名前の出てきた奴ら、全員帝国騎士団から追放してやりたいがな」

三番隊隊長が、吐き捨てるように言った。

…良かった、と思った。

あれが普通じゃなかったんだ。後輩を平気でイビり、いじめ、追い詰めるのが帝国騎士団の言う「正義」だと思っていた。

でも、違うのだ。

上の人は、ちゃんと分かってる。まともな感性をしてる。

それを知れただけでも、良かった。

少しは報われた気がする。

「それと…ルトリア。貴殿の身の振り方は、どうする?」

「…俺の…?」

「貴殿が退学処分になったのは、入学試験時の不正行為が原因ということになっていたが…それは無実だと分かった。つまり、貴殿の退学処分は無効になった訳だ」

…退学処分が…無効。

ってことは。

「今この瞬間から、お前は第二帝国騎士官学校に生徒に戻った訳だよ。退学処分が無効なんだからな」

と、三番隊隊長。

…そうなる…よな。

年齢的には有り得ないのだけど…。退学がなかったことになるのだから、俺は今この瞬間、あの学校に復籍したことになる。

「これでもし、貴殿に足の問題がなければ…すぐにでも帝国騎士団に迎え入れるのだが…」

「…それは…」

「残念ながら、それは叶わない」

…俺のポンコツな足では、帝国騎士にはなれない。

そのことは、俺も死ぬほど悔いた。

だが、今更それを悔やんでも、もう仕方がない。