Music of Frontier

そして、取り残された俺は。

「あ、あの…。あの、俺…」

無実です。本当に無実なんですよ。

俺は何も疚しいことはしてなくて。今日は心から善意100パーセントでお父様に会いに来ただけで。

後ろめたいことはなんにも。

しかし、ベーシュさんのお父様の鋭過ぎる眼光を見ていると、何も言葉が出てこない。

怖い。

すると、向こうから話しかけてきた。

「…お前、本当にベーシュの彼氏なのか」

「い、い、いえ、そんなことはありません。ベーシュさんの彼氏なんて、そんな畏れ多いこと…」

考えたこともありません。

お父様の目を見るのが怖過ぎて、俺は必死に目を逸らしていた。

故に、俺はそれが目に入った。

「…あれ?」

ベッド脇にある、私物を入れる為の背の低い棚。

その下段に、何冊かの雑誌が入っていた。

あの雑誌って…。確か半年くらい前に、何ヵ月かに渡って『frontier』が特集されていた音楽雑誌だよな。

6月号ってことは…確かベーシュさんのインタビュー記事が載ってたはず。

俺が5月号だったから、ベーシュさんは来月ですね~、なんて話したのを覚えている。

それだけじゃない。

その音楽雑誌の横に置いてあるのは、ファッション雑誌だ。

今年の3月号ってことは…確か、俺達が出てる号のはず。

そこに入ってる去年のファッション雑誌は、ベーシュさんが表紙を飾っているし…。

よく見たら、そこにあるのは『frontier』の写真集じゃないか。

そんな…。まさか、じゃあベーシュさんのお父様は…。

「…ずっと、ベーシュさんのこと…」

「ん?…あぁ」

ベーシュさんのお父様は、俺が視線の先に見つめているものに気づいたようで。

「別に…。ちょっとした気紛れだ。ベーシュが載ってるからって、人にもらったんだよ」

「…」

そんなはずはない。あの写真集は、初回生産限定のサイン入りじゃないか。そんなものをホイホイ他人にあげる人なんていないだろう。

それに、隣にあるあのファッション雑誌は、俺達が最初にモデルとして雑誌に載ったときのものだ。

あのときは俺達も今ほど人気ではなかったから、今では入手困難で、オークションサイトでプレミア価格で販売されているくらい、レアな雑誌。

余程昔から、『frontier』のことを追いかけ続けているコアなファンしか持っていないような代物だ。

それを持っているなんて…。

…間違いない。

ベーシュさんのお父様は…ずっと、ベーシュさんのことを…遠く離れた土地で、音楽で身を立てるという夢を、見事に叶えた娘のことを…影ながら、応援していたのだ。

さっきは、ぶっきらぼうに「ベーシュが何処で何してるのかなんて知らない」なんて言っていたが…。