Music of Frontier

お父様と仲直り出来たみたいで良かったなぁ…なんて、ほっこりしている余裕は俺にはなかった。

それよりも、自分の身の心配をしろ。

「見たことのある顔だな…。お前、『frontier』の優男ボーカルだろ」

「えっ、あぅ、あっ…はい…」

え?お父様『frontier』知ってるの?

少なくとも、俺の顔を見て即ボーカルだと分かるくらいには。

ベーシュさんが何処で何をしているのか、知らないのではなかったのか?

いや、それより。

「…お前、まさか…ベーシュの彼氏じゃないだろうな?」

「そっ!そん、そんな、めっぽうもありません!」

噛んだ。

ボーカルとしてあるまじき失態。

「はい彼氏です」なんて、冗談でも言ってみろ。

そこのベッド持ち上げて、投げてきそうな勢いだ。

「おい、ベーシュ…。この男とはどういう関係だ?」

お父様は、ベーシュさんにそう尋ねた。

ちょ、ベーシュさん下手なこと言わないでね。

きっぱり言ってやってください。こいつはただの仕事仲間で、それ以上の関係では全くありません、と。

しかし。

忘れてはいけない。ベーシュさんは、基本天然なのである。

「どういう関係…?仲良しだよ。一番好き」

「!」

ちょ…ベーシュさん?

え?ベーシュさん?

メンバーの中では、だよね?そこ省かないでちゃんと言って。

「今日もね、朝から一緒にいたんだけど、お父さんが入院したって聞いて、死ぬ前に会った方が良いって言って、一緒に来たの」

「…」

ちょっ…ベーシュさん。誤解を招く言い方やめて。

確かに今日は朝から「仕事で」一緒にいたし、死ぬ前に「ベーシュさんが」会った方が良いと思ったから、会いに行くのを勧めただけで。

恐る恐る、お父様の方を見る。

あまりの剣幕に、俺は叫び出したくなった。

…やべぇ。あれは獣を殺す目だよ。

「ほう…。まさかとは思うが…ベーシュ、こいつと夜を明かしたことがあるんじゃないだろうな?」

そっ、そんなことがある訳な、

「うん、あるよ」

あっけらかんとして頷くベーシュさん。

「ラジオで」までちゃんと言って。そこ省略しないで!

物凄く誤解を生んでるから!

「…そうか…」

ベーシュさんのお父様は、恐ろしい眼光で俺を睨んでいた。

ベーシュさんは、私何か変なこと言った?みたいな顔できょとんとしていたが。

ベーシュさん父のあの顔。

貴様よくもうちの娘に手を出しやがったな、の顔だ。

ヤバい。これは死んだ。

「…ベーシュ、ちょっとお前…しばらく部屋から出てろ」

「?何で?」

「俺はこの男に話がある」

「そう。じゃあ外で缶ジュースでも飲んでるね」

そして、あっさりとベーシュさんは俺を捨てた。

「あぁ、そうしろ」

「じゃあルトリア、また後でね」

ひらひら、と手を振って、ベーシュさんはさっさと病室を出ていった。

そ、そんな…。

神は…神は俺を見捨てたもうたか…。