Music of Frontier

病院に辿り着いた俺達は、受付でベーシュさんのお父様の病室を尋ねた。

そこは、俺が入院していた病院よりも更に大きな病院で。

こんなところに入院しているなんて、何だか厄介な病気なのではないか、と俺は不吉な予感を感じていた。

神様。信じたことはないが、今ばかりは。

どうか、ベーシュさんのお父様が無事でありますように。

これがもし、入院したのが自分の親だったら、俺はこんなに心配していなかっただろう。

けれど俺は今、ベーシュさんのお父様が無事であることを心から祈っていた。

そして。

「…ここ…ですね」

「うん」

そういや俺…手土産も何も持ってきてないな。

慌ててたから仕方ないが。

もし難しそうな機械に囲まれて、色んな管を身体に通されて…なんてことになってたら、どう…。

「入るね」

「あ、ちょベーシュさん」

ベーシュさんは、特に躊躇いもなくがらっ、と引き戸を開けた。

すると。

「…ん?…なんだ、ベーシュか」

「久し振り、お父さん。入院したって聞いたから来たよ。大丈夫?」

「大丈夫に決まってるだろ」

…割と普通に喋ってる。

あれ?大丈夫そう?

それにベーシュさんのお父様、案外元気そう。

頭に包帯を巻いているものの、しゃんとしてベッドに座っているし。

管に繋がれてもいないし、血色も良い。

…あれ?意外と元気そう?

しかもベーシュさんもお父様も、普通に喋ってるんだけど…。

「何で入院したの?頭でも打ったの」

「馬鹿言え。事故だよ、事故。飲酒運転の馬鹿に後ろから追突されてな。ちょっと切れただけなのに、こんな大袈裟な包帯巻きやがって」

「ふーん…。じゃあ元気なの?」

「何ともねぇよ。それなのに、過保護な医者に一応頭だから検査しましょうとか言われてな。それに、追突してきた向こうが結構な大怪我してんだよ。そのせいで余計過保護な検査されちまってんだ」

…。

…お父様、強くない?

追突された被害者なのに、かすり傷(自称)で済んで。

追突した方が大怪我って。

「検査結果にも特に異常はないから、明日抜糸したら即退院だとよ」

「そうなんだ…。なぁんだ…」

「なんだとは何だ。大怪我してると思ったか?」

「病気にでもなったのかと思った」

ベーシュさんがそう言うと、お父様は豪快にがはは、と笑った。

失礼ながら…病気に…なりそうなお父様じゃないね。

成程ベーシュさんがあまり心配していなかった訳だ。

「そっか…。元気なんだね。良かった」

「お前こそ、元気そうじゃないか。ちょっと背が伸びたか?」

…久々の親子の再会で、乱闘が起きるかと思いきや。

全然和やか。

むしろ良い雰囲気過ぎて、明らかに俺が邪魔。

「うん。私が今何処で何してるのか、知ってる?」

「いいや。でもそこそこ活躍してるそうだな?たまに名前を聞くぞ」

「そっか」

何処で何してようがもう気にしてない、って?

それはそれで…悲しいような…。

「…怒ってる?私のこと」

ベーシュさんは、少し不安そうにそう聞いた。

しかし。

「別に、もう怒っちゃいない。元気で達者にやってるようだから、それで良い」

「そっか…」

「ちゃんと食べてるか?」

「うん。缶詰だけど」

「おいおい」

全くお前は、と苦笑いするお父様。

何だこれ…良い話。

こんな良い場面に立ち会えるなんて、感動で目から汁が、

「…ところで、ベーシュ」

「何?」

「…その男は、誰だ?」

ベーシュさんのお父様の、鋭い眼光が突き刺さった。

…あ、やべ。死亡フラグだこれ。