Music of Frontier

病院には、タクシーで向かった。

道中、俺ははらはらしていた。

ベーシュさんのお父様、大丈夫なんだろうか?

俺の頭に思い浮かぶのは、ドラマでよく見る、色んな機械に囲まれてぐったりとベッドに横たわっている姿。

俺も短くない期間入院していたが、精神科だったので、複雑そうな機械に囲まれて…ということはなかった。

もし、もう長くない…と言われたら。

話をすることも出来ないくらい、容態が悪かったら。

一体、どうすれば良いんだ。

他人であるはずの俺が心配しまくっているというのに、実の娘であるベーシュさんは、けろっとして窓の外を眺めていた。

「ベーシュさん…。随分落ち着いてますね。大丈夫ですか?」

「うん」

…強がってるようには見えない。本当に大丈夫そうだ。

「そうですか…。余裕があるのは良いことですが…」

…むしろちょっと、余裕過ぎでは?

まるで心配してないってことはないと思うけど…。

「…その…難しい病気…とかじゃなかったら良いですね」

「うん。そうだね」

「…ベーシュさん、正直あまり心配しておられない?」

それとも、まだ実感が沸かないだけなのだろうか。

妙にあっけらかんとし過ぎでは?

元々そういう人ではあったけど。むしろベーシュさんが狼狽えて震えてたら、俺までびびると思う。

でも、それにしたってこの余裕っぷりは何処から来てるのか。

「うん。心配はしてないよ。あんまり」

「…」

「私、お父さんが死ぬところなんて全然想像出来ないもの。だからきっと大丈夫」

…それ…それが根拠?

ベーシュさんの記憶にあるお父様は、いつも元気だったからそう思うのだろうが…。

…まぁ、「もう手遅れかもしれない」と震えているよりは、これくらい楽観的な方が精神状態は良い。

「…ベーシュさんのお父様って…どんな方なんですか?」

暗い話題を変えようと、俺はそう尋ねた。

怒ると怖い人…ってのはさっき分かったが。

このベーシュさんを育てた人なのだから、きっと相当に…剛毅な人だと想像される。