Music of Frontier

「…」

「…ん?」

俺は慌てて携帯を取り出す。

が、俺の携帯は沈黙していた。

俺のじゃない。ということは…。

「…ベーシュさんのでは?」

「私の…?…あ、本当だ」

「ちょっとそれ持ってますから。貸してください」

ベーシュさん、両手が塞がってるから。

「でも杖持てないでしょ?」

「平気ですよ、ちょっとくらいなら」

「じゃあお願い。ごめんね、そのゲーム機あげるから」

「いや…要らないですけど…」

しかしベーシュさん、この山盛りの景品どうするの?

プラモデルとかも混じってるんだけど。造るのかな?ベーシュさん。

ともかくまずは電話に出て。

「あ、ユーリアナだ…。はい、もしもしベーシュちゃんです」

自分でちゃんって。

それにしても…ユーリアナさんから?

何だろう。お仕事の話…?

それなら俺にかけてきても良いのに。何故ベーシュさん?

あ、ベーシュさんに急ぎのお仕事とか?

なんて思っていたが、事態はもっと深刻だった。

「…そう。そうなの…。…ううん、要らない。…うん、良いの。もう会わないつもりだから」

…。

…誰にだろう?

お仕事の話じゃないのか?

「うん。気にしないで、大丈夫だから。…それじゃ」

ぴっ、と通話を切るベーシュさん。

…女性同士の通話に、俺が口を挟むのは無粋というものだが…。

「…えっと、ベーシュさん…。何だかよく分かりませんが、呼ばれたんじゃないんですか?」

「え?うん。呼ばれた」

「行かなくて良いんですか…?」

「うん。お仕事じゃなくてプライベートの話だったから」

そうなのか…。お仕事じゃなくてプライベートの。

…あれ?でもプライベートの話なのに、どうしてユーリアナさんがかけてくるんだ?

…何だか、不吉な予感がする。

厚かましいかもしれないが…聞いても良いだろうか。

「えっと…差し出がましいですが、詳細を聞いても…?」

「うん。何だかね、うちの…父が倒れたらしくて、入院することになったって病院から連絡が来たんだって」

「!?」

「一番近い肉親が私だから、事務所に私宛で連絡が来たんだろうね」

来たんだろうねって、あなた。

そんな…他人事のように。

「さて、それじゃりんご飴食べに行こうか。あっちに…」

「ちょ、りんご飴なんかどうでも良いですよ!」

「…?」

何だってベーシュさんは、そんなに落ち着いていられるんだ?