Music of Frontier

一人は、いつもの男だ。

「ねぇ~ルルシー…」

「…何だよ」

「…結婚しましょ?」

人の耳元で、甘い声で囁くその声は。

うっかり「良いよ」と言ってしまいそうなほど妖艶で、まるで悪魔に囁かれているようだ。

しかし、忘れてはならない。

この男は悪魔ではない。

…死神だ。

「断る」

ってか自分の部屋に帰れ。

お前、ここが自分の巣だと思ってるだろ。

いや、来なかったら来なかったでこの間みたいに不安だから、来ても良いんだけどさ。

何をしているのか分からないのが一番怖い。

「何でぇ~…」

「何でじゃねぇよ…。お前、これだけ毎回断られてて、『こんなに断られるということはもう無理だな』とか思わないのか?諦めるという選択肢はないのか」

「ありません。俺の辞書に『落とせない』という文字はありませんから。相手が誰であれ、俺のフェロモンで落としてみせます」

大変潔くて宜しい。

そりゃお前の辞書に「落とせない」なんて文字はないだろうよ。

まぁ…この男がもし「ルルシーとの結婚は諦めました」なんて言い出したら。

頭を打ったか、それとも影武者かと組織中で大騒ぎしなければならないことになるだろうから。

…このままで良いのか。不本意だが。

はぁ…と溜め息をついていると。

「ルルシー、いる?」

もう一人、俺の同僚がやって来た。