Music of Frontier

俺は自分から、帝国騎士になる道を捨てたのではない。

捨てさせられたのだ。

姉はそのことを知らない。

俺の不正行為疑惑が出任せで、学校側の不手際のせいで大怪我して、そのせいで足が使い物にならなくなって。

もう帝国騎士の道が閉ざされたからって、学校の不祥事を隠す為に多額の口止め料を渡され、カンニングの冤罪を着せられて退学させられた。

その後精神を病んで二年間入院し、退院してからも長い間薬を飲み続け、ようやく完治したと思いきや、過去のトラウマがきっかけで今度は摂食障害になった。

このことを知れば、姉は俺に同情するだろうか?

少なくとも、こんな憎々しげな顔で俺を睨みはしないだろう。

しかし、俺は何も言わなかった。

本当のことなんて、言う必要はない。

学校の理事長達に、口止め料をもらったから?

違う。単に、姉は知らない方が良いと思っているだけだ。真実なんて誰の為にもならない。

今更真実を知ったところで、何になる。

「…」

姉は俺を睨み付けていた。その目には、ありありと憎しみが見て取れた。

姉にとって俺は、帝国騎士の道を自分から諦めた腰抜けなのだ。

俺は帝国騎士官学校を退学させられたが、帝国騎士団に入団拒否された訳ではない。

騎士官学校を出なくても、ただ上の役職につきにくいだけで、入団届けを出せば平社員ならぬ、平騎士にはなれる。

姉は俺の足が使い物にならないことを知らないから、学校をやめさせられても、帝国騎士にはなれるはずだと思っているのだ。

そして、俺は当然その道を行くものだと思い込んでいた。

貴族ではなくなっても。帝国騎士官学校を卒業していなくても。でも帝国騎士にはなれる。

俺の実力なら、時間をかければいずれは出世して、姉と同じ場所に立つことも出来たかもしれない。

でも…俺のその道は、永遠に閉ざされたのだ。

…俺だって、足がこうなっていなければ、その道を考えていたよ。

もう無理なんだよ。

あなた曰く、風俗や水商売の仕事をするしかないんだよ。

その世界では、まだ必要とされているから。

「…俺のことはもう放っておいてくれませんか。実家がいくら恥をかこうと、迷惑を被ろうと…俺の知ったことではないので」

…我ながら、酷い親不孝者だ。

けれど、俺にはもうどうやって親孝行すれば良いのか分からない。

自分が生きていくだけで精一杯なのだ。

「…そうか。なら、もう止めない」

姉はそう言って、立ち上がった。

別に、俺を認めた訳ではない。

「…お前には失望した。二度と顔も見たくない」

「…」

他に、言うべきことは何もなかった。

姉はそのまま去っていった。

…多分、もう会うことはないだろう。

大好きだった姉と、こんな風に別れるのは悲しかった。

けれど、俺にはどうすることも出来なかった。