Music of Frontier

「…」

杖を…持ってこなくて良かった、と思った。

杖を持っていたら、俺の…足の障害のことが、姉にバレてしまうところだった。

「…何しに来たんですか」

「…」

姉は、顔をしかめて俺をじっと見つめた。

何を考えているのか…大体想像はつくが。

「…お前、随分とふざけたことをしているようだな」

姉はそう言って、俺の写真が一面に載せられたファッション雑誌を、テーブルの上に無造作に投げた。

…やっぱり、そういう話か。

そりゃあそうだ。あの親に育てられたのだから、姉もあちら側の人だ。

俺のやっていることは、あくまで「ふざけたこと」なのだ。

まぁ…最初の挨拶代わりに「この恥さらし!」と叫ばれなかっただけ、両親よりは多少マシだな。

「母上が憤慨していたぞ。ようやくお前から連絡が来たと思ったら、もう口を出すなと生意気なことを言って切られたと」

「俺が悪いみたいに言わないでくれます?先に喧嘩売ってきたのは向こうなんで」

俺だってな。相手が穏やかに話しかけてきたら、こちらも穏やかに話すよ。

出会い頭に「こんにちは」の代わりに「恥さらし!」だぞ?そりゃ喧嘩腰にもなるだろう。

「恥ずかしくないのか?顔を売るなんて、そんなことで金を稼いで…。やってることは風俗や水商売と同じだ」

「それの何が悪いんです?風俗だろうと水商売だろうと、誰かがやらないといけない仕事なんです」

自分だけは関わりたくないと思うのは勝手だが。

それで頑張ってお金を稼いでいる人がいるのだから、それを馬鹿にする権利が誰にある。

別に違法な仕事をしている訳じゃないのだから、誰に恥じる必要もない。

余計なお世話だ。

「…下らない理論だ」

「あなたがそう思うのは勝手ですが、その価値観を人に強制しないでもらえます?何と言われようと、俺はやめるつもりはないので」

「女にきゃーきゃー言われるのがそんなに楽しいか?それとも、笑顔を振り撒いているだけで金を稼げるのが楽しいのか?どちらにしても、クズの思考だな」

「…」

…何だと?

「親にもらった顔を売り物にするなど…反吐が出る。私は許さないぞ。そんな低俗な仕事をするなんて」

「…許さないから、どうするって言うんですか」

さすがの俺も、これにはキレた。

そのときの俺は、ファンの皆様にはとても見せられない顔をしていたに違いない。

ルクシーでもビビったかもしれない。

けれども、さすがは帝国騎士。

この程度では、姉はびくともしていなかった。

「あなたはいつまで、俺の姉のつもりなんですか」

誰も彼も、勘違いをしているんじゃないか。

俺は、もうマグノリア家の人間じゃない。

一体、何度言えば分かるのだ。