Music of Frontier

急いで着替えを終わらせ、涎の跡を拭き、俺は部屋を飛び出した。

お客様は応接室に通してるから、とのことなので、応接室に向かおう。

「…あ」

応接室の手前まで来て、俺は杖を持ってくるのを忘れていたことに気づいた。

どうにも歩きづらいと思ったら。

家の中で歩くぶんには、手すりに掴まって歩けば、杖がなくても問題ないので…つい忘れがち。

まぁ、寝起きで寝惚けていたのもある。

今から取りに戻るのも面倒だし…。このままで良いか。

俺はそう判断して、応接室の扉を開けた。

中にいるのは、多分ユーリアナさんか、あるいはベーシュさんだろうと思っていた。

もし…もし彼女だと知っていたら、俺は決して会わなかっただろう。

ルクシーのお母様も、彼女が俺にとってどういう関係かを知っていれば…家の中には通さなかったはずだ。

「お待たせしまし…た」

「…」

扉を開け、中で待っているのが誰か。

認識するまでに、しばし時間がかかった。

…直接会うのは、何年ぶりだろうか。

俺は思わず足を止め、愕然と立ち尽くしてしまった。

「…久し振りだな、ルトリア」

そこにいたのは…俺の姉だった。

マグノリア家の長女。多分…家族の中で、一番仲が良かった。

でも…俺がマグノリア家を追い出されてから、一度も彼女に会うことはなかった。

もう二度と会わなくて良いと思っていた。

それなのに。

…こんなところで、何の前触れもなく再会することになるとは。

あんなに眠かったというのに、俺の眠気は一瞬にして吹き飛んだ。