Music of Frontier

「ルトリア君、ルトリア君起きて」

「うぅ…ん?」

誰かに身体を揺すられて、俺は目を覚ました。

ぼんやりした視界の中に、抱き締めていた羊の抱き枕の顔が映った。

ちなみに、この抱き枕。ファンの皆様から送られてきたプレゼントである。

前にラジオで「最近起きたとき、ベッドから墜落してることが多々あるんですよ。抱き枕でも抱いてたら良いんでしょうかね?」と何気なく喋ったところ。

たくさん抱き枕が送られてくることになった。

大変有り難く頂戴し、こうして毎日抱き枕を抱いて寝ることにしたのだが。

結果。やっぱり落ちるものは落ちる。

抱き枕を抱いたまま落ちる。

俺の墜落癖は、抱き枕程度では直せないらしい。

さて、それはともかく。

「ふぁい…?」

「ごめんなさいね、よく寝てるところに…」

「…?」

寝ぼけ眼のまま起きると、そこにはルクシーのお母さん。

…超寝起きの顔見られちゃった。はずかしー。

涎が垂れてなかったのがまだ幸い。

これが、あと二時間くらい後だったら、爆睡のあまり涎を垂らしていたところだっただろう。

あ、待て。いや、ごめん。垂れてるわ。

友達のお母さんに、寝起きの涎垂らした姿を見られてしまった。

ぐしぐし、と涎を拭き、キリッ、と前を向く。

これでリカバリー完了。

…だと思おう。

「ごめんなさいね。寝てるところを起こしちゃって」

「あ、いえ…。大丈夫です。どうしたんですか…?」

ルクシーから、何か連絡でも?

「実はね、あなたに会いたいって人が訪ねてきてて…」

「俺に…?誰ですか?」

「分からないの。若い女の人なんだけど…」

「女の人…?」

…って、誰?

ここの住所を知っている女の人と言えば…。

…ベーシュさんか、ユーリアナさん?

携帯を確認してみる。

一応…連絡は入っていないが。

近くまで来たから、直接会って伝えようと訪ねてきた…とか。

有り得ない話ではない。

「はぁ、分かりました…。通してもらえますか」

「えぇ。でもその前に…その、着替えた方が良いわ」

「…」

ルクシーのお母さんに言われて、俺は改めて自分の服装を確認した。

左手に抱き枕(ファンにもらった)。寝巻きは、白いうさ耳フードつきパーカー(これもファンにもらった)。

口元は涎の後。髪には寝癖。

…成程。人に会う格好ではないな。

「…なんか…あの、済みません…」

「良いのよ、大丈夫。あなたは、ほら…もう私の息子も同然だもの」

にこっ、と微笑んで全てをなかったことにしてくれるルクシーのお母様。

あなたは、母親の鑑です。