Music of Frontier

俺はルトリアから受話器を奪い取り、ルトリアの両親に言いたいことを言ってやるつもりだった。

今までは、どんなに冷たい態度を取られようと、下流貴族のドブネズミだと蔑まれようと、それでもルトリアの親だからと思って、我慢してきた。

けれど、今度はもう我慢しない。

我慢する必要はない。

ルトリアも言っていただろう。ルトリアはもう、マグノリア家の人間ではないのだ。

「どうも、マグノリア家の女当主様。エルフリィ家のルクシーです」

名乗りはしたが、あの人は俺の名前なんて覚えているだろうか?

怪しいところだ。

すると、

『ルクシー…?…あぁ、あの子にずっと付きまとってた、下流貴族の子ね』

どうやら覚えていてくれたらしい。

結構な覚えられ方だな。分かっていたことだから腹も立たないが。

『あなたね!?ルトリアに余計なこと吹き込んで、道を踏み外させたのは!こうなったのは、全部あなたのせいよ!』

「!ルクシーは関係ありません!」

ルトリア母の言葉に、ルトリアは鋭く反駁した。

だが、俺は言い返さなかった。

確かに、ルトリアにこの道を勧めたのは俺だ。『frontier』…あの頃は『ダーク・エンジェルズ』だったが、バンドに引き入れたのも俺だ。

あの当時は、売れることを考えていた訳じゃなかった。

ただ、元気をなくしたルトリアの、生き甲斐になれば良いと思っただけだった。

そして実際、ルトリアにとって『frontier』での活動は、生きる糧を取り戻すきっかけになった。

こうなるまでに、どれだけ長く、辛い日々を乗り越えてきたことか。

その苦労も知らず、ただ頭ごなしに「恥さらしだからやめろ」なんて。

俺がどれだけ怒りを覚えていたが、想像出来るだろうか。





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