Music of Frontier

翌日。

俺は早速、マグノリア家に連絡をした。

最初に出たのは使用人の一人で、俺が名乗ると、何者かと首を傾げていた。

恐らく、俺が家を出てから新しく雇った使用人なのだろう。

成程、俺を知らない訳だ。

そもそも俺の存在を知らされていないらしく、俺は元マグノリア家の人間だと言っても、信じてもらえなかった。

危うく悪戯電話として切られるところだったが、古くから仕えている使用人に聞いてみてくれと無理を言ったところ。

申し訳ありませんでしたと、今度は俺のことを知っている古くからの使用人が電話を代わった。

その時点で、既に電話をかけてから10分がたっていた。

それから、その使用人に俺は、電話口に父か母のどちらでも良いから連れてくるように頼んだ。

すると何を勘違いしたのか、その使用人は「家を追い出されたボンクラ息子が、金に困って実家に無心している」と思い込んだようで。

「申し訳ありませんが、そういった用件では取り次がないようにと言われておりますので…」などと、検討違いなことを言われた。

俺がこのとき、どれだけイラッとしたか分かるだろうか。

思わず、苛立ちを隠さずに声を荒らげた。

「こっちだって連絡したくてしてんじゃないんですよ。そっちがウザいくらい電話してくるから、こちらから折り返してあげたんでしょ?良いからさっさと連れてきてください!どっちでも良いから!」

俺がそう怒鳴り付けると、使用人もびびったようで。

少々お待ちください、と言って、呼びに行った。

いくら金に困ろうと、誰がお前らなんかに頼るものか。

そんなことするくらいなら、身体を売った方がまだマシだ。

少々お待ちください、からたっぷり10分は待たされ。

最初のやり取りも含め、電話をかけてから実に30分近くたって。

ようやく、電話口に目的の人物が出た。

ふざけんなよ。こっちだって暇じゃないんだぞ。

母と話をするのは何年ぶりかというほど、長らく話していなかったというのに。

記念すべき第一声は「この恥さらし!」だった。

怒っているのは俺の方なのに、しかし電話の向こうの母も、俺に負けないくらい怒り狂っていた。

ぎゃーぎゃーと喚くばかりで、何が言いたいのかいまいち分からなかったが。

要するに、「お前はマグノリア家の恥さらしだ」ってことと。

それから、「今すぐアイドルをやめろ」ってこと。これだけは分かった。

手紙にも書いてあったことだ。

あんたは壊れた玩具か。同じことしか言えないのか。

別に、懐かしい昔話なんて出来る相手ではないことは分かってるから、構わないけど。

そもそもあんたとする懐かしい昔話なんてない。

そっちは何やら怒り狂っているようだが、こっちだって怒ってるんだからな。

一方的に俺への罵倒に唾を飛ばす母に、俺は段々と怒りを募らせていった。

冷静に話をしようと思っていたが、30分も待ちぼうけを食らわされ、挙げ句ようやく取り次いでもらえたと思ったら、この悪口大会。

そりゃいくら温厚な人だって、イライラするだろう。

電話はスピーカーモードにしていたのだが、隣で聞いていたルクシーも、俺と同じくらい怒っていた。

顔を見れば分かる。

最初の予定では、ひとしきり母に好き勝手言わせてから、こちらも反撃に出るつもりだったのだが。

口汚い罵倒の数々に、俺も我慢出来なくなったので。

母の言葉を遮るようにして、こちらも言い返すことにした。