Music of Frontier

「…」

ルクシーの、この不機嫌そうな顔。

とてもアイドルには見えない。

長い付き合いだから分かる。これは…超怒ってるときの顔だ。

激おこルクシーインフェルノだ。

「…ルクシー。怒ってます?」

「…あぁ」

「俺の両親に?」

「あぁ。それとお前にもな」

えっ。

「俺…何悪いことしました…?」

ルクシーを怒らせるなんて怖過ぎるので、出来れば早急に謝罪したい。

「もっと早く言えよ、この馬鹿。手紙を受け取った時点で言え」

「あ、なんだ…そんなことか…」

うっかりそう口にしてしまうと、ルクシーは眉を吊り上げて、俺の肩をガシッと掴んだ。

痛い痛い痛い。

「何だと…?何がそんなことなんだ?ん?」

「ご、ごめんなさいごめんなさい。痛いので手離してください」

「『ちゃんと話さなくてごめんなさい』は?」

「ち、ちゃんと話さなくてごめんなさい」

「『今度からは何でもすぐに相談します』は?」

「こっ…今度からは、何でもすぐに相談します…。…多分」

「多分は要らん!」

「あいたっ!」

べこしっ、とはたかれた。痛かった。

一応謝ったら、肩は離してくれたが、まだズキズキする。

痛かった~…。ルクシー容赦ないから…。

そりゃ俺が悪いんだけどさ…。

「…それで?お前の両親からの手紙には何て?」

ルクシーは不機嫌そうに俺に尋ねた。

手紙…現物はもう捨ててしまったが。

書いてあったことは覚えている。

「…想像通りのことですよ。『アイドルなんて恥さらしだからやめろ』って…。散々罵倒されてました」

「それだけか?帰ってこいとか、元気にしてるのかとかは?」

「そういうのは、全く…」

「…ちっ」

ルクシーは渾身の舌打ちをした。

こんなところ、ファンにはとても見せられないな。

ルクシーが怒ってるところって、俺だって怖くて見ていられないのに。

「お前のことを心配もせず、ただ頭ごなしに『アイドルをやめろ』って。それだけか?」

「えぇ…」

「人の親にこんなことは言いたくはないが、お前の親は本当…酷い人間だな」

「大丈夫。俺もそう思ってますから」

他に下すべき評価が見つからないよ。

人の親になるべき人間ではないよな。

まぁ…名家の貴族は、何処も大なり小なりそういうところはあると思うが…。

「ルトリア…一応聞いておくが、『frontier』やめます、とか言い出さないよな?」

まさか。

「とんでもない。やめはしませんよ、俺は」

「…実家と揉めるくらいなら、俺達やユーリアナに迷惑をかけられないからやめる。とか言い出さないな?」

うわぁ、ルクシー鋭い。

俺のことを本当によく分かってる。

「言い出しかねないですね。それは…」

「良いか、ルトリア。それだけは言うな。絶対言うな。もし言ったら、俺はお前と絶交する」

えっ。

「ちょっ…それは酷いですよ、ルクシー」

そんなことされたら、俺はどうなるか。

帝国騎士官学校を退学させられ、マグノリア家を追い出されたとき以上のショックを受けることだろう。

絶対に、それだけは嫌だ。

「嫌なら、絶対言うな。俺だって絶交なんて死ぬほど嫌なんだから。分かったな?」

「…分かりました。言いません」

「よし」

ルクシーとこれからも一緒にいたいなら。

俺は意地でも、『frontier』のボーカルであり続ける必要があるそうだ。