Music of Frontier

不穏な気配が流れ始めたのは、サインを無事に書き終え、やっと帰れるとなったそのとき。

残念ながら今日のラジオ担当はルクシーとエルーシアかので、今日は一人で帰宅である。

そろそろ摂食障害も治ってきているので、また独り暮らし再開したいところなのだが…。

などと考えながら、一人で事務所を出ようとした、そのとき。

「ルトリアさん!」

「はい?」

後ろから、ユーリアナさんが追いかけてきた。

「良かった。間に合って…」

「俺に何か?」

「はい。ちょっと…渡しておきたいものがあって」

…渡しておきたいもの?

とは?

「何ですか?」

「えっと…。この、手紙なんですけど…」

「手紙…?」

「事務所に届いていたんです。渡そうか渡すまいか悩んだんですけど、最近かなり頻繁に送られてくるので…」

「…!」

ユーリアナさんは、戸惑い気味に白い封筒を差し出した。

差出人の名前を見て、俺は思わず身がすくんだ。

…これは…。

「この手の手紙はよく送られてくるので、悪戯かと思ったんですが…。中身を見たところ、ただの悪戯とも思えなくて…」

「…」

「一応…渡しておこうと思ったんです。あの…もし悪戯だったら、処分して構わないので…」

「…そうですか」

…こんなものが。

今更…。

「あの…大丈夫ですか?」

ユーリアナさんは、申し訳なさそうにそう言った。

俺がいきなり口数少なくなってしまったから、心配になったのだろう。

俺の…過去のことは、ルクシー以外は知らないもんな。

無理もない。

「…そうですね。大丈夫です。届けてくれてありがとうございます、これ」

「いえ…。ただの手の込んだ悪戯に過ぎないと思うので、あまり気にしないでくださいね。私も気にしてませんし」

ユーリアナさんは、多分、何かを察したのだろう。

でも、俺に気を遣って、敢えて気にしていない振りをしてくれた。

優しい人だ。ユーリアナさんは。

あくまで…ただのタチの悪い悪戯。そういうことにしておいてくれたのだ。

俺も…そういうことにしておきたいよ。

「それじゃ、帰りますね、俺」

「はい。お疲れ様でした」

にこっ、と微笑むユーリアナさんに見送られ。

俺は、一人でエルフリィ家に戻った。