Music of Frontier

「ふぁ…疲れた…」

控え室に引っ込むなり、俺は衣装を着たまま膝をついてしまった。

「お、おいルトリア。大丈夫か」

「ちょっと…済みません。大丈夫なんですけど…疲れました」

メンタル的には、全然大丈夫なんだけど。

フィジカル的に疲れた。

「まぁ、いつもより大舞台ではあったが…」

「大丈夫ルトリア?酸っぱジュース飲む?」

「あ、いや酸っぱジュースは結構なんで…。スポーツドリンク頂けたら…」

「どうぞ、ルトリアさん」

ユーリアナさんが、すかさずスポーツドリンクを持ってきてくれた。

ありがとうございます。

「やっぱり、お前…。無理をするから…」

ルクシーは、俺を抱き抱えるようにして椅子に座らせてくれた。

「いえいえ、大丈夫なんですよ本当。足がちょっと疲れただけで」

メンタル的には大丈夫なんだよ。何度も言っているが。

「足が…。車椅子、用意しましょうか?ルトリアさん」

ユーリアナさんは、心配そうに俺にそう尋ねた。

車椅子なんて、そんな大袈裟な。

「平気ですよ。ちょっと休んだら、杖ついて歩けますから」

ポンコツ足を酷使してしまったから、こんなことになってるだけだ。

「そうですか…。…あ、ルトリアさん…。お疲れのときに申し訳ないんですが、ライブの主催者側から頼まれて、色紙にサインを二枚ほど…お願い出来ませんか」

ユーリアナさんは、申し訳なさそうに二枚の色紙を持ってきた。

あれ。二枚で良いの?

「良いですよ。それくらい」

「ありがとうございます」

さらさらとサインして、ユーリアナさんに渡す。

何で二枚なんだろう。誰が欲しがってるのかな。

まぁ、俺には知るよしもないが。

「俺達も、今日は疲れたな。いつもより」

「緊張したからかね~?」

「じゃあ、今日の打ち上げは後日だね」

「だな」

今日の打ち上げは、後日パターンか。

多分俺の為だろうな。申し訳ない。

「…もう終わったからな、ルトリア」

ルクシーが、俺を励ますようにそう言った。

「そうですね…。終わりましたね。無事に」

「頑張ったな」

「皆さんのお陰ですよ」

俺一人だったら、とてもじゃないけど乗り越えられなかっただろう。

そもそも、俺が今も一人だったら…今頃、とっくに自殺でもしてるだろうよ。

まさか、こんなに平然と彼らの前に姿を現すことが出来るなんて。

我ながら、遠いところまで来たものだ、と思った。