Music of Frontier

ライブは、時刻通りに始まった。

ステージの中央に立ち、スポットライトを浴びて歌いながら、俺は観客席を見つめていた。

ステージに立ったからには、私情は挟まない。『frontier』のボーカルとして、やるべき務めを果たすのみだ。

頭は歌に集中していた。けれど、俺は無意識のうちに…知っている顔を探していた。

結果、最初の一曲を歌い上げるまでに、俺は何人かの見知った顔を見つけた。

観客の顔を一人一人見分けるのは、俺の特技のようなものだ。

姉の姿はやはり見つからなかったが、エミスキーとラトベル以外のクラスメイトを数人。

それから、かつて俺をいじめていたルームメイトの先輩も、一人だけだが、見つけた。

俺はあの顔を覚えていたが、向こうは俺を覚えているのかどうか。

今となっては、どうでも良いことだ。

彼らの顔を見ても、俺は相変わらず乱れなかった。

一曲目を歌い終わった後、俺は観客席に深々とお辞儀をして、最初の挨拶をした。

「皆さん、こんにちは。『frontier』です。今日は帝国騎士団慰労会、特別ライブに足を運んでくださって、本当に、本当にありがとうございます!」

声が震えてしまうようなこともなかった。

怯えて、立ちすくんでしまうこともなかった。

うん、大丈夫だ。

「今回は、帝国騎士団毎年恒例の慰労会という、大変名誉ある機会に呼んで頂いて、本当に感謝しています。同時に、正直今、めちゃくちゃ緊張してます」

冗談めかして言うと、観客席から笑いが起こった。

嘘である。実は俺、今、全く緊張してない。

むしろ、緊張とは程遠いところにいた。

「精一杯頑張りますので、皆さん、これから二時間の間、心行くまで楽しんでいってください。そして、日頃のお仕事の疲れを癒していってくださいね」

俺は、笑顔でそう言った。

こんなときに、よく笑顔が出てきたものだと我ながら思う。

でも、それが俺の仕事だった。

「それでは、二曲目行きましょう。皆さん、サイリュームの用意は良いですか!」

観客席がわぁっと沸き立ち、光輝くサイリュームがゆらゆらと揺れた。

よし。大丈夫。

行こう。




そこから二時間、俺は音楽になりきった。