Music of Frontier

エミスキーと、ラトベルだった。

最後に会ったときから、もう随分と時間がたったというのに…俺は、彼らの顔を覚えていた。

…さすがに、ちょっと大人びたな。

「…ルトリア?誰か見つけたのか」

「えぇ…。…学生時代の…クラスメイトです」

有人です、とは言えなかった。

今思えば、俺と彼らは友人でも何でもなかった。

二人は、俺が盗み見ていることに気づかず、楽しげに談笑していた。

「大丈夫か?ルトリア」

「えぇ。平気です」

学生時代のクラスメイトを見つけた俺が、また発作に襲われるかもしれないと…ルクシーは危惧したようだが。

懐かしい二人の顔を見ても、俺の心がざわめくようなことはなかった。

思うところが何もない訳ではない。

でも、心を乱されるようなことはなかった。

まぁ…あの二人に直接いじめられた訳ではないし…。

それにしてもあの二人、『frontier』のボーカルが俺だってことを知ってるんだろうか?

知っていてこの会場に足を運んだなら、大した根性だと思うが。

多分、知らずに来たのだろう。

彼らは『frontier』を観に来たのではない。慰労会に参加しに来たのだ。

『frontier』のボーカルが俺だと知っていて、呑気に観に来られるほど…肝の据わった人間ではない。

とてもじゃないけど顔は会わせられないと、俺がいると知っていれば、絶対に来たりしなかったはずだ。

ステージに上がったのがかつてのクラスメイトだと知ったとき、彼らはどんな反応をするだろうな。

そう思うと、残酷な喜びが沸き上がってきた。

…まぁ、どうでも良いや。

そもそも二人共、俺を覚えているのかどうかさえ定かではない。

もう俺のことなんて、とっくに忘れているかもしれない。

忘れているのなら、忘れていても構わない。

…いじめられた側は忘れないが、いじめていた側はすぐに忘れるって言うもんな。

「クラスメイトの他には…誰かいるか?その…お前の姉とか」

ルクシーは、視界の端に俺の姉を見つけられないかと、さがしているようだった。

姉か。姉…あの人は厳格な人だから、この場に来ることはないと思うが。

演劇やクラシックコンサートならまだしも、こんな浮わついた…アイドルのライブなんて、観たこともない癖に、低俗なものと決めてかかっているはずだ。

少し前までの俺なら、その考えに同意していただろうな。

好きなアーティストのライブに行く。歌に合わせて、サイリュームを振る。拍手や歓声を送る。CDを買って、握手会やサイン会に並ぶ。

下らない、低俗で世俗的な趣味と言われればそれまで。

でも、今は…そうは思わない。

自分が心から「大好き」と言えるものがあるって、とても素敵なことだ。

そして、自分の歌が、誰かに勇気を与えたり、誰かを励ましたり出来るのは…もっと素敵なこと。

今は、そう思う。

「…姉の姿は、見えませんね」

多分、来ていないだろう。

まさか俺がこの舞台に立つことも知らないだろうし。

「…ルームメイトの先輩は?」

「ここからは見えませんけど…。いてもおかしくありませんね」

一人二人くらいは、いるんじゃないかな。

あと、イーリアも。

いたとしても、どうってことはないが。

「…そろそろ時間です。戻りましょうか」

「…大丈夫か?本当に」

「だから、大丈夫ですって。もう何回言わせるんですか?」

俺は茶化したように笑った。

別に演技なんてしてない。心から笑ってるつもりだ。

俺は、もう自分の居場所を見つけた。

過去の亡霊に、足を囚われる必要はないのだ。