Music of Frontier

本番前。

着替えとメイクは無事に済ませたのだが、俺はどうにもそわそわして落ち着かなかった。

…何て言うか。

「…ねぇ、ルクシー。ちょっと俺、客席覗いてきて良いですか?」

「え?大丈夫か?」

「気持ちの準備…しておこうと思って」

客席に、その…俺の知っている人達がいるかどうか。

気になるなら、先に見ておいた方が良い。

心の準備の為に。

「…一緒に行こうか?」

「…そうですね。一緒に来てくれると有り難いです」

ルクシーが来てくれれば、百人力だ。

すると、ベーシュさんが。

「大丈夫?ルトリア。酸っぱジュース飲んでおく?」

「あ、いえ…。平気なんで…」

ってかベーシュさん。あなた今日も持ってきたの?

いつも作ってきてる?もしかして。

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「15分前には戻ってこいよ」

「了解です」

ミヤノに見送られ、俺とルクシーは、客席をこっそり覗きに行った。

会場に来ている観客達は、女性の帝国騎士が多かった。

まぁ…『frontier』のファンは、元々女性の方が多いから。

しかし、中には男性の観客もいた。

まず目についたのは。




「うふふ。見てくださいこの服。素敵でしょ?」

「うん、ルレイア素敵。格好良い…」

「シュノさんも素敵ですよ。それに…ルリシヤも。その仮面決まってますね」

「だろう?特注のダークメタル仮面だ」

「相変わらず良いセンスしてますよあなたは」

「アイ公~。アリューシャ喉乾いた~」

「ここで飲んじゃ駄目だよ。ロビーに行って飲まなきゃ。ほら、ついていってあげるから一緒に行こう」

「…はぁ…何で俺はこんな怪奇集団とこんなところに…」

…なんか。

…ちょくちょく見るよね。あの人達。

あれ?ここにいるということは…あの人達、帝国騎士だったの?

でも…それにしては、あの人達だけ雰囲気が…。

更に、客席の後方では。

「…おい。ルレイアのところに行かなくて良いのか?」

「あぁ。傍に行くと怒るだろうからな。それに…俺は、あいつと同じ空間で同じものを見られるだけで充分だ」

「…あ、そ」

「それよりアドルファス、お前サイリュームは?持ってきてないのか」

「持ってくる訳ないだろ。むしろ何でお前は持ってきてるんだよ」

「ライブだと基本だぞ。それに、ちゃんと練習もした。これが意外と奥が深くてな、曲ごとに振り方が違うんだそうだ。お前にも伝授しよう」

「やめろ」

…そんなやり取りをしている人達もいる。

サイリューム…覚えてくれてありがとう。適当に振ってくれても良いよ。

それにしても、あの人達…随分偉い人のように見えるけど、もしかして隊長さんだったりするのかな?

いや、でも慰労会の場に副隊長以上の人が来るなんて、聞いたことないし…。

この場に足を運ぶのは、大抵、時間に余裕のある一般の平社員ならぬ、平騎士さんだけ。

別に隊長さんも来ることが出来ない訳ではないだろうが…。多忙な彼らが、わざわざ俺達のライブに足を運ぶとは思えないし…。

まさか、隊長さんではあるまい。

大体、隊長さんがあんな呑気な会話をするはずがない。

それよりも…俺が探しているのは。

「…あ」

探すまでもなかった。

早速俺は、見知った顔を見つけた。