Music of Frontier

数としては、五対一。

圧倒的劣勢ではあるが、最早まともな常識を兼ね備えているのは俺だけだ。

ならば、俺が止めなくては…。

「…あのなお前ら。よく考えてみろ。帝国騎士団だぞ?帝国騎士団の慰労会に、マフィアである俺たちが参加するなんておかしいと思わないのか」

「でも、オルタンスが招待してきたんですよ?」

そうだった。

あいつもあいつで馬鹿だよな。止めてくれよ。アドルファス辺り。

さてはもう諦めたな?

「お前、帝国騎士団のこと嫌ってるじゃないか。嫌ってる奴らに招待されて、ホイホイ従うのか?」

まさか帝国騎士団への恨みを忘れた訳ではあるまい。

すると、案の定。

「そりゃ、奴らは憎いですよ。超嫌いですよ?でも、帝国騎士団には罪はありますけど、『frontier』に罪はありませんから」

「…それは…そうだが…」

「だから観に行きます。タダで『frontier』の限定ライブが観られると思えば、どうということはありませんよ」

「…」

少し前のルレイアだったら、帝国騎士団憎けりゃ『frontier』も憎し、になっていただろうから。

こんな風に言えるようになったのは、喜ぶべきことなんだろうが…。

…でも、だからって行くか?

普通行くか?

何かが間違ってるだろ。

「…あのなぁ。いくら今は停戦状態とはいえ、何かの罠である可能性だってあるんだぞ?呑気に敵の巣窟の中に入るなんて…」

「大丈夫だルルシー先輩。サイリュームは俺が用意してやるから」

「誰がサイリュームの心配をしたよ」

どうでも良いだろ、そんなもん。

大体、サイリュームならもう持ってるよ。今まで何回、ルレイアに強制的にライブ連れていかれたと思ってるんだ。

「お前ら、真面目に人の話を…!」

「俺、ライブの為にオーダーメイドで服作ろうと思って!やっぱりお洒落して行きたいですよね~」

「うん。私もお洒落する」

「俺も仮面を新調するつもりだ。楽しみにしててくれ」

「見てくれアイ公。アリューシャのサイリューム捌き!」

「上手だね~、アリューシャ。やれば出来るアリューシャだね」

…。

…今、思えば。

俺がこいつらを止めようとして、止められたことは一度もないのだった。

こうなるともう、俺に出来ることは何もなかった。