Music of Frontier

「…良かったのか?これで」

家に帰るなり、ルクシーは俺にそう尋ねた。

ずっと気になっていたらしい。

「だから、良いですって。無理もしてないですし。心配性にも程がありますよ」

「でも…。帝国騎士団だぞ?最悪…その、お前の姉や、かつての同級生に…」

ルクシーは、言いにくそうにしながらも、そう口にした。

…そうだね。

俺だって、その可能性を考えなかった訳じゃない。

むしろ、この話を聞いて最初に出てきたのがそれだったよ。

ステージの上で、姉に会うかもしれない。かつての俺の同級生や、俺を酷い目に遭わせてくれた、ルームメイト達の姿も、見ることになるかもしれない。

と言うか…多分、見るだろう。

見たくないと思ってても、探してしまうだろう。

見たくないものほど、無意識に目で追ってしまうものだから。

そして、彼らも俺に気づくだろう。

『frontier』のボーカルを務めてるのが、俺だってことに。

もしかしたらもう、俺が音楽活動してることくらい、とっくに知ってるのかもしれないけど。

慰労会は強制参加ではないらしいが…俺が知っている人、俺を知っている人の一人二人くらいは、見に来るだろうからな。

まぁ…顔を合わせることになるだろう。

お互い気まずいことになりそうだが…。

俺はあくまで、観客の一人として扱うつもりだ。

「…別に、俺はもう…恨んじゃいませんし」

そりゃ憎ったらしいとは思うけどさ。

ぶっ殺してやりたいって程じゃないし。

むしろ、彼らのお陰で俺は今、幸せに暮らしてる訳だから。

感謝…まではしないが、恨み節をぶつけようとは思わない。

「それどころか、ルクシー…。俺は、ちょっと嬉しいとも思ったんですよ」

「…嬉しい?何が?」

こんなこと考えるなんて、自分でも不思議なんだけど。

「だって、今の俺が凄く幸せで、充実してて、人生楽しんでる姿を…見せびらかしてやることが出来るんですから」

あいつらが知ってる俺の顔は、暗くて、不幸で、辛そうな顔だけだ。

何だか、癪じゃないか。

あんな目に遭ったけど、今は幸せなんだぞ。今はここで、こんな素敵な仲間達に囲まれて、拍手と喝采を浴びてるんだぞって。

お前らのことなんか忘れて、達者でやってるんだぞって。今は自分の居場所を見つけたんだぞって。

見せびらかしてやりたい。

俺の不幸を願っていた者にとっては、一番悔しいことだろう?

「そのくらいの意趣返しは…俺にも許されるんじゃないですか?」

「それは…そうだけど…」

「だから心配要りません。頑張りますよ、俺」

ミヤノ達が言っていたように、名誉な仕事でもあるし。

全力でやらせてもらう。

「…これ以上は、言っても無駄か。でも…もしこの件のせいで、体調が悪くなるようなら…お前が何と言っても、やめさせるからな?」

「分かりました。それで良いですよ」

そうなったら…俺も嫌だが。

でも、そうはならないんじゃないかな。

少し前までの俺なら、倒れていただろうけど。

今は、少しもそんな気がしない。

そういう意味では、俺は…もう、吹っ切れたということなのだろう。

過去の痛みを、忘れた訳ではない。

だけど、その痛みに縛られて、前に進めないことはない。

だって、俺はもう孤独ではないのだから。

そう思うと、過去の亡霊に会うことも…怖いとは、思わなかった。