Music of Frontier

その日、俺達は動画の撮影の為に、『R&B』が所持するスタジオの、控え室に集まっていた。

撮影時間までまだ少し時間があったので、まったりしていた。

「皆、豚まん買ってきたんだが食べないか?」

ミヤノが、人数分の豚まんが入った白いビニール袋を出した。

最近皆、俺の為にこうして食べ物の差し入れを頻繁にくれる。

お陰で、俺の体重は徐々に増えつつある。

だが、エインリー先生曰く、「もう少し太った方が良い」とのこと。

肥えさせられる家畜の気持ちってこんな感じなのかなぁと思うが、それにしては差し入れてくれるものが美味しいものばかりで、大変幸せな家畜である。

有り難く豚まんをもらって、もしゃもしゃ食べてみる。

美味い。

「美味しいですね豚まん」

「それは良かった」

「酸っぱジュース飲む?ルトリア」

「…いえ…大丈夫です…」

何で持ってきてるの?ベーシュさん。

もしかして癖になってる?そのジュース。

ユーリアナさんが興奮気味に俺達のもとにやって来たのは、俺が豚まんを貪り食っているそのときだった。

「皆さん!大変です!」

「ふぇっ!?」

俺はびっくりして、豚まんにかぶり付いたままユーリアナさんを凝視した。

こんなに興奮するユーリアナさんを見たのは、いつ以来か。

全国ツアーの知らせを俺達に伝えたときのそれだ。

「どうしたんだ?ユーリアナ」

「大変なんです。帝国騎士団の慰労会に、『frontier』が指名されました!」

「ぶふぉっ!?」

あまりに驚き過ぎて、豚まんが気管に入った。

「むはっ、げほっ!ぶはっ!」

「大丈夫ルトリア?酸っぱジュース飲む?」

ベーシュさんが、サッ、とタンブラーを差し出したが。

ルクシーが苦笑しながら、水のペットボトルを差し出してくれた。

「いや、それだと余計に噎せるから…。ほら、水」

「あ、ありがっ…。げはっ、ぶふっ…」

ごくごくと水を飲む。ようやく落ち着いた。

気管が豚まんに溺れて死ぬかと思った。

「…ふぅ…」

…それで?

それでユーリアナさん、今何て?

かなり、不穏なワードが聞こえた気がしたんだが。

「…それで、ユーリアナさん。何ですか?」

「帝国騎士団が、今年の慰労コンサートに『frontier』のライブを依頼してきたんです。大抜擢ですよ、これは!」

「…」

これには、さすがの俺も言葉を失った。

ルクシーなんて、露骨に渋い顔をしていたくらいだ。