Music of Frontier

「あぁ…。今年の慰労会だが、帝都のコンサートホールを借りて、コンサートを開こうと思うんだが…」

「そうかよ。…ん?でも去年もそうじゃなかったか?」

ちゃんと決まっている訳ではないが。

大体毎年ローテーションで、今年食事会だったら、来年はコンサート、再来年は演劇、という風にやってきたのだが。

去年は、帝都にあるオーケストラ楽団のコンサートじゃなかったか?

となると、今年は演劇公演…になるはずなのだが。

「今年もコンサートをやらないか」

「は?いや…別に俺は何でも良いけど」

どうせ、俺は参加しないし。

大体、何でお前がそれを決めてんの?

いつもは、慰労会の内容なんて隊長会議で話し合うことじゃないだろ。

下の者が勝手に決めて勝手にやってる。

そもそも慰労会は、末端の部下達に開かれてるものだ。

別に俺達隊長が参加してはいけない訳ではないが…。

「皆、『frontier』って知ってるか?」

「…」

…『frontier』だと?

何だそれは。

なんか、雲行きが怪しくなってきたぞ。

「…誰か知ってるか?」

しかし、この場にいるオルタンス以外の人間は、皆首を傾げていた。

誰も知らないようだ。

「なんだ、誰も知らないのか…」

「す、済みません。不勉強で…。何なのでしょうか、『frontier』とは。まさか、新しく出来た非合法組織の…」

真面目なルーシッドは、真剣な顔でそう言ったが。

しかし、そんなルーシッドの生真面目さは、今日も無駄になる。

「バンドだ。今若者に人気らしい。yourtubeにもたくさんの動画を出している」

「…」

「CDや写真集も出てるんだぞ。秋から全国ツアーも始まるらしい。…ほら」

オルタンスは、さっ、と写真集を取り出して見せた。

…うん。

…何で持ってるの?お前。

「…それが何だよ?」

「このボーカル…ちょっとルレイアに似てて格好良いとは思わないか?」

「お前、早く『青薔薇連合会』行けよ」

もういなくて良いよ、お前。

「…まさか、ボーカルがルレイアに似てるから、そいつらのライブを観たいって訳じゃないよな?」

もしそうだったら、お前、殴るぞ。

上司とか帝国騎士団長とか関係ない。

殴る。

しかし、オルタンスは。

「彼らを呼んでライブをしたいのは確かだが、そんな不純な動機ではないぞ」

「…」

…本当だろうな?

最早お前が何を言っても、胡散臭く聞こえるんだが。

「じゃあ、どんな動機だよ」

「あぁ。実はこの『frontier』…ルレイアが、大ファンらしいんだ」

あ?

「もし『frontier』のライブがあるからおいでって招待すれば、ルレイアが来てくれるかもしれない」

「…」

「だから今年の慰労会は、『frontier』にライブを頼もうと思う。合法的にルレイアとライブを観賞するチャンスだ」

…あのさ。

…俺、殴って良いよな?

ルーシッドなんか見てみろ。絶句して言葉を失ってる。

ルシェはまんざらでもなさそうだが。

リーヴァなんて、心を無にしてる顔だぞ、あれ。

「…駄目か?」

「…」

…もう、殴るのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

「…誘うのは良いが、ルレイアは来るのか?」

「さぁ…来なかったら寂しいな。そのときは、俺が『frontier』のボーカルにサインをもらって、ルレイアにあげよう」

お前、もう本格的に帝国騎士団長やめたら?

やめて、ルレイアのハーレムに入れよ。