Music of Frontier

これには、エインリー先生も少々困り顔だった。

「今の君は、人に見られる立場だからね…。無理もないと言えば無理もないけど…」

「…エインリー先生、俺…入院させられるんですか?」

俺が心配しているのは、その点だった。

入院なんてしようものなら、その間の『frontier』はどうなる。

俺だけの問題では済まないのだ。

ルクシーは『frontier』より俺の方が大事だと言うけれど…俺は自分より、『frontier』の方が大事だ。

「本当は…入院した方が良い。君の場合は、初めてじゃないからね」

エインリー先生がそう言うものだから、ルクシーは、

「分かりました。じゃあ入院させてやってください」

「ちょっ…。勝手に決めないでくださいよ。俺がいなくなったら『frontier』が…」

「何度も言わせるな。『frontier』なんかどうでも良い。お前の方がずっと…」

「でも!そんな無責任なこと出来ないじゃないですか。どれだけの人に迷惑がかかると思ってるんです」

ミヤノ達に頭下げるだけじゃ済まないんだぞ。

色んなところからお仕事の依頼をもらっている。それら全てに穴を開けてしまうことになるのだ。

そんなこと、絶対に許されない。

「退院したとき、戻る場所がなくなるのは嫌です。俺は『frontier』に戻りたいんです。それなのに…戻る場所がなくなったら、俺は…」

…治るものも、治らないじゃないか。

そう言うと、さすがのルクシーも黙り込んだ。

俺に、治療に専念させたいと思う気持ちは分かる。有り難いと思う。

けれど、そのせいで『frontier』に居場所をなくすようなことがあったら…きっと、余計に悪くなる。

今度こそ立ち直ることは出来ない。今や、『frontier』は俺の心の拠り所なのだから。

すると、エインリー先生が。

「…そうだね。私も…入院はやめておいた方が良いと思う。治療の為には入院するべきだけど、でもその後のことを考えると…入院しない方が良い。余計に酷いことになる」

「…エインリー先生…」

「大丈夫。通院でもちゃんと治るから。むしろ余程重症でない限り、通院治療で治すのがメジャーだよ。食事療法と…それから、薬物療法も再開しよう。…良いよね?」

「…はい」

薬物療法…か。

また薬飲まなきゃいけないのか…。

気は進まないが…仕方ない。

「大丈夫。以前より量は少ないからね」

エインリー先生が、俺を励ますようにそう言った。

「それから…ルクシー君。悪いけど、食事療養と薬物療法の管理は、また君に頼んで良いかな?」

「えぇ、勿論です」

それこそ自分の仕事、と言わんばかりに力強く頷くルクシー。

ルクシーに頼まなくても、自分で出来る…と、言えたら良かったのだけど。

残念ながら、それは言えそうになかった。