Music of Frontier

ルクシーは、俺にカンニング疑惑が浮上したことなど知らなかった。

彼は第二帝国騎士官学校の生徒ではないし、うちの家族も、わざわざルクシーに俺のカンニング疑惑についてなんて話さない。

だから彼がうちを訪ねてきてくれたとき、彼は何も知らなかった。

何も知らなかった…はずなのに。

ルクシーは俺の顔を見るなり、驚いたような表情になった。

「…ルトリア、どうしたんだ?大丈夫か…?」

「…ルクシー…」

「何かあったのか?学校で…」

「…」

ルクシーに話すべきか否か、俺は迷った。

「実はカンニングしたって疑われて」なんて言ったら、ルクシーはどんな反応をするだろう。

俺の無実を信じてくれるだろうか。それとも…。

「…話したくないことなら、無理には…」

「…実は俺、学校で『カンニングした』って言われてて」

俺は、話すことにした。

親友であるルクシーに隠し事をすると思ったら、後ろめたい気持ちになったからだ。

それに、口に出すことで少しでも心の重荷を軽く出来たら、と思ったから。

するとルクシーは、目を見開いてきょとんとした。

「…は?」

「試験で…カンニングペーパー作って…。それで良い成績取ったんだって言われてて」

「…誰なんだ?そんな言い掛かりつけてきた馬鹿は」

ルクシーは、苛立ちを隠そうともせずにそう尋ねた。

…言い掛かり、か。

「ルクシーは俺がカンニングしたと思ってないんですか」

「お前がそんな馬鹿なことするはずないだろ」

ルクシーにそう言われて、初めて気がついた。

ただの一度も、一瞬たりとも俺を疑わなかったのは、ルクシーだけだったということに。

エミスキーも姉も、最初に「カンニングしたのは本当なのか?」と尋ねてきた。

「それは嘘だ、そんなことはしていない」と俺が言って初めて、俺の言い分を信じてくれた。

最初から全く疑わなかったのは、ルクシーだけ。

ルクシーだけだったのだ。

俺はその事実に気がついて、思わず涙が込み上げそうになった。

自分を信じてくれる人がいる。それも、無条件に。

そう思って、俺は初めて慰められた気分になった。

「一体誰がそんな言い掛かりをつけてきたんだ?またお前のルームメイトの先輩か?」

「…主犯はルームメイト、クラスメイトが共犯者だそうです」

「…」

ルクシーの、この不機嫌そうな顔。

まるで、自分がいじめられたかのようじゃないか。

「それを…信じる奴がいるのか」

「むしろ、信じない人の方が珍しいですよ」

って言うか…信じなかったのはルクシーくらいだよ。

いや、エミスキーやラトベル、イーリアも…俺が無実だということは分かっているのだ。

分かっているけど、表立ってそれを言えば、自分達も風当たりが強くなってしまう。

だから気づかない振りをする。俺を悪者にしておいた方が、自分達にとばっちりが来なくて平和なのだ。

自分達まで変な噂を立てられちゃ堪らないから、カンニング疑惑のある生徒には近寄らない。

エミスキー達のそんな選択は、ある意味では間違っていない。

間違ってはいないけども。それに巻き込まれてハブられる身となった俺にとっては、迷惑な話だった。

ルクシー一人だけでも、俺を信じてくれたから…まだ落ち着いていられるけど。

これで、ルクシーにまで「本当にカンニングなんてしたのか」と詰め寄られたら、さすがの俺も泣いてしまうところだった。