Music of Frontier

「…なぁ、ルトリア…。俺には…お前の気持ちを推し量ることしかできないけど…。でも…比べられるものじゃないだろ?」

「…」

「帝国騎士と、アーティストと…どっちが『凄い』かなんて…比べられるものじゃない。どちらも凄いし、尊いだろ?それとも何だ。お前の中では、帝国騎士じゃない人間には何の価値もないのか?尊敬されないのか?」

「…そういう訳じゃ、ありませんよ」

ルクシーにとっては、おかしな話だろうね。

帝国騎士であることに、何で俺がこんなに固執するのか…分からないだろう。

自分でも分からないよ。

でも、俺は生まれたときから…いや…生まれる前から、帝国騎士になる為に育てられた。

それだけの為に育てられ、そして、帝国騎士になれないのなら、お前には何の価値もないと言われながら育った。

だから今の俺は、どんな言葉で慰められようとも、どんなにお前には価値があると言われようと…響かないのだ。

ただの気休めにしか聞こえないのだ。

今でも俺の耳には聞こえている。

「帝国騎士じゃないお前に、何の価値もあるものか」と。

だから俺には、多分…何の価値もないのだ。

違うって分かってるのに。

こんな俺でも、必要としてくれてる人がいることは分かってるのに。

でも、駄目なのだ。

自分が…酷く惨めで、仕方ない。

「…お前が十年以上かけて築いてきた価値観が、俺の言葉くらいで変わるとは思えない。ただ…ルトリア。これだけは覚えておいてくれ」

「…はい?」

「お前が…例え何であろうと、そんなお前を必要としてる人がいるんだ。お前じゃなきゃ駄目だって言う人がいるんだ。だから…自分に価値がないなんて思うな。絶対に」

「…」

…そっか。

ルクシーは…ずっとそう言ってくれてたね。

「…分かりました。覚えておきます」

「…こんなつまらないことで、『frontier』やめる、なんて言い出さないよな?」

「まさか。そんなこと言いませんよ」

今では、『frontier』の一員であることが、俺の唯一の価値なのだから。

イーリアは、エミスキーやラトベルや、かつてのルームメイトや、マグノリア家の家族は、そんな俺を軽蔑するだろう。

でも、俺にはもう…それしか残っていないのだ。

それがなくなったら、俺という人間はおしまいなのだ。