Music of Frontier

…数時間後。



俺は、暗闇から目を覚ました。

「…ん…」

気がつくと、そこはエルフリィ家の…つまり、ルクシーの家の、一室だった。

以前俺が居候させてもらっていた部屋のベッドに、寝かされていた。

…この部屋、俺が出ていったときと何も変わってないんだな。

きっとまた戻ってくると、予測していたんだろうか。ルクシーは。

そうだね。こんなに弱いんだもんな、俺は。

帝国騎士団の…かつての級友達の姿をテレビで見た…だけで、壊れてしまうくらいなんだから。

自分の弱さに、自分でも呆れてくるほどだよ。

すると。

「…ルトリア、目が覚めたか」

「…ルクシー…」

ベッドの傍らに、ルクシーが立っていた。

…ずっと、そこにいてくれたのかな。

「…お仕事、どうなりました?」

俺…あのまま倒れちゃったんだよね。

あの後、レコーディング会社の方と打ち合わせをしなくちゃならなかったのに。

すっぽかしてしまった。

「ユーリアナが先方に事情を話して…後日に回してもらうことになった。大丈夫だよ」

「…そうですか…。…済みません。迷惑かけて」

「迷惑なんかじゃない。俺の方こそ…済まなかった。お前に…またあんな思いを…」

…馬鹿だなぁ。

何で、ルクシーが謝るんだ。

皆に迷惑と心配と、迷惑をかけたのは俺だろう。

「…思い知りましたよ。自分が負け犬だったんだってことを」

「負け犬だなんて…。そんなことはないだろ」

「いいえ…。あの人達からしたら、俺は負け犬ですよ…」

帝国騎士にはなれなかった。でも、俺は今、そこそこ名の知れたアーティストとして、有名になっている。

だから、それだけで充分だと思っていた。

自分はそちらで身を立てるのだと。帝国騎士にはなれなかったけど、歌手になれたのだから良いと。

でも、その考えこそが負け犬の発想なのだと気づいた。

だって、そんなこと…彼らに言ってみなよ。

「君達みたいに立派な帝国騎士にはなれなかったけど、ネットではそこそこ有名な歌手になれたよ」なんて。言ってみなよ、帝国騎士の彼らに。

失笑されておしまいだよ。「ああそう、頑張ったんだねおめでとう」って。

馬鹿にされて終わりだよ。

俺の家族にも言ってごらんよ。あんなに手間をかけて、期待もかけられて、第二帝国騎士官学校に入ったのにさ。

いじめられて、おまけに教師に足潰されて、家の顔に泥塗って出ていって。

そこで大人しくしてれば良いものを、ネットに顔を晒して、ちゃらちゃらした格好で、女の子にきゃーきゃー言われて喜んで。

家族が何て言うか、考えるまでもない。

俺は『frontier』の仕事を誇りに思っている。仲間達のことも。

厳しい音楽の世界で、高みを目指して努力している達のことも。

そんな俺達の歌を聴いて、時に力を得たり、慰められたりしているファンのことも。

音楽というものに携わる、全ての人を俺は尊敬している。

けれども、彼らは…俺がかつていた世界では、音楽に価値なんてなかった。

たから、俺がどれだけ音楽の世界で大成しようと。

彼らにとっては、俺はいつまでも「帝国騎士になれなかった負け犬」なのだ。

オリンピックで金メダルを獲ろうと努力していた者が、諦めて地元に帰って、近所でちょっと人気の運動教室を始めたようなもの。

所詮彼らとは、格が違う。

社会的な権威だって、彼らの方がずっと上だろう?

何と言っても彼らは、このルティス帝国の政府機関である帝国騎士団にいるのだ。

精々ネットアイドルに過ぎない俺とは、比べ物にならない…。

そう思うと…自分はどんなに惨めな立場にいることか。