帝都の大通りで、フロート車の上で、大勢の観衆達の声援を浴びながら。
彼は、帝国騎士団の真っ白な制服を着て、笑顔で手を振って、観衆の声援に応えていた。
そんなはずはないのに、彼の周りにいる他の帝国騎士の姿が、エミスキーやラトベルや、俺を散々痛め付けた学生寮のルームメイトの顔に見えた。
「…!」
そのときの俺がどんな気持ちだったか、想像出来るだろうか。
一気に、現実というどん底に叩きつけられた。
彼らは笑っていた。俺は決して着ることが叶わない服を着て、決して立つことの出来ない場所に立って、決して聞くことが出来ない民衆の声援を浴びていた。
俺が諦めさせられた場所に、彼らはいる。
まるで、何も悪いことなんてしてこなかったみたいな、正義の顔をして。
俺を踏みにじって、俺の将来と未来を全部狂わせたことも、まるでなかったことのように。
正義の帝国騎士として、人々の尊敬を集めていた。
「…っ…!」
吐き気がした。気持ち悪くて気持ち悪くて、頭の中が沸き立っていた。
怒りはなかった。殴り付けてやりたいとも思わなかった。
何もかも、過去のことを全部なかったことにして、何も悪いことなんてしてこなかったみたいな顔をして、当然の権利のように図々しくも人々の歓声を一身に浴びている彼らに、復讐してやりたいとも思わなかった。
憎悪はなかった。憤怒もなかった。
ただ、彼らが気持ち悪かった。
同じ人間だと思えなかったのだ。人の人生、平気で潰しておきながら、自分は白々しくも夢を叶えて、過去を顧みることもなく順風満帆な人生を送っているイーリアが。
あのおぞましい学校で、俺を傷つけた全ての人間が。
何で、あんなことが出来る?
自分が何をしたのか、分かってるのか?
過ぎ去ったことは、なかったことになるのか?過去は過去と割り切ったつもりか?
過去を過去と割り切るのは、加害者のやることではない。
被害者が、過去に折り合いをつける為にすることだ。
加害者は過去を過去と割り切ることは許されないだろう。
どうして?
どうしてあの人達は。
俺が焦がれて、永遠に手の届かない場所に立ってるんだ?
…俺を、踏みつけにしておきながら。
「ルトリア、しっかりしろ」
「お、おいルトリーヌ、大丈夫か?」
気がつくと、仲間達が心配そうな顔で俺を見ていた。
胃液が込み上げ、ぐるぐると目が回った。割れんばかりの頭痛もした。
息が苦しくて、胸をぎゅっと押さえた。
耐えきれずに、俺は床に膝をついた。
「…ベーシュ、テレビを消してくれ」
ルクシーは、俺がこうなった理由が分かっていた。
俺にそんなものをみすみす見せてしまったことを、彼が酷く悔いていることを…俺は知るよしもなかった。
「分かった」
何で?とは聞かなかった。
ベーシュさんは少しも狼狽える様子はなく、リモコンを手に取り、テレビの電源をオフにした。
だが、残念ながらそれも効果はなかった。
一度見てしまったのだから、今更テレビを消しても意味はない。
あの光景は、俺の中に印刷でもしたように刻名に残っていた。
目の前に思い出せるほどだった。
「大丈夫かルトリア!?病院に…」
「ど、どうしちまったんだよ?いきなり…」
「救急車…呼ぶ?」
ミヤノもエルーシアもベーシュさんも、俺を心配してくれていた。
そして、ルクシーも。
「ルトリア…。大丈夫だ、お前はもう関係ないんだから…。あんな奴らに…囚われる必要はないんだから…」
…うん、そうだね。
ルクシーの言いたいことは分かる。俺も…その通りだと思う。
でも、駄目だ。
関係ないからと、切り捨てられるほど生易しい過去ではなかった。
彼は、帝国騎士団の真っ白な制服を着て、笑顔で手を振って、観衆の声援に応えていた。
そんなはずはないのに、彼の周りにいる他の帝国騎士の姿が、エミスキーやラトベルや、俺を散々痛め付けた学生寮のルームメイトの顔に見えた。
「…!」
そのときの俺がどんな気持ちだったか、想像出来るだろうか。
一気に、現実というどん底に叩きつけられた。
彼らは笑っていた。俺は決して着ることが叶わない服を着て、決して立つことの出来ない場所に立って、決して聞くことが出来ない民衆の声援を浴びていた。
俺が諦めさせられた場所に、彼らはいる。
まるで、何も悪いことなんてしてこなかったみたいな、正義の顔をして。
俺を踏みにじって、俺の将来と未来を全部狂わせたことも、まるでなかったことのように。
正義の帝国騎士として、人々の尊敬を集めていた。
「…っ…!」
吐き気がした。気持ち悪くて気持ち悪くて、頭の中が沸き立っていた。
怒りはなかった。殴り付けてやりたいとも思わなかった。
何もかも、過去のことを全部なかったことにして、何も悪いことなんてしてこなかったみたいな顔をして、当然の権利のように図々しくも人々の歓声を一身に浴びている彼らに、復讐してやりたいとも思わなかった。
憎悪はなかった。憤怒もなかった。
ただ、彼らが気持ち悪かった。
同じ人間だと思えなかったのだ。人の人生、平気で潰しておきながら、自分は白々しくも夢を叶えて、過去を顧みることもなく順風満帆な人生を送っているイーリアが。
あのおぞましい学校で、俺を傷つけた全ての人間が。
何で、あんなことが出来る?
自分が何をしたのか、分かってるのか?
過ぎ去ったことは、なかったことになるのか?過去は過去と割り切ったつもりか?
過去を過去と割り切るのは、加害者のやることではない。
被害者が、過去に折り合いをつける為にすることだ。
加害者は過去を過去と割り切ることは許されないだろう。
どうして?
どうしてあの人達は。
俺が焦がれて、永遠に手の届かない場所に立ってるんだ?
…俺を、踏みつけにしておきながら。
「ルトリア、しっかりしろ」
「お、おいルトリーヌ、大丈夫か?」
気がつくと、仲間達が心配そうな顔で俺を見ていた。
胃液が込み上げ、ぐるぐると目が回った。割れんばかりの頭痛もした。
息が苦しくて、胸をぎゅっと押さえた。
耐えきれずに、俺は床に膝をついた。
「…ベーシュ、テレビを消してくれ」
ルクシーは、俺がこうなった理由が分かっていた。
俺にそんなものをみすみす見せてしまったことを、彼が酷く悔いていることを…俺は知るよしもなかった。
「分かった」
何で?とは聞かなかった。
ベーシュさんは少しも狼狽える様子はなく、リモコンを手に取り、テレビの電源をオフにした。
だが、残念ながらそれも効果はなかった。
一度見てしまったのだから、今更テレビを消しても意味はない。
あの光景は、俺の中に印刷でもしたように刻名に残っていた。
目の前に思い出せるほどだった。
「大丈夫かルトリア!?病院に…」
「ど、どうしちまったんだよ?いきなり…」
「救急車…呼ぶ?」
ミヤノもエルーシアもベーシュさんも、俺を心配してくれていた。
そして、ルクシーも。
「ルトリア…。大丈夫だ、お前はもう関係ないんだから…。あんな奴らに…囚われる必要はないんだから…」
…うん、そうだね。
ルクシーの言いたいことは分かる。俺も…その通りだと思う。
でも、駄目だ。
関係ないからと、切り捨てられるほど生易しい過去ではなかった。


