Music of Frontier

俺にそれを思い出させたのは、テレビだった。

『R&B』事務所のロビーにある、テレビ。

その日は、セカンドアルバム制作に向け、レコーディング会社との打ち合わせが入っていた。

少し早く着いてしまった俺達は、ロビーにあるソファに座って、まったりと喋っていた。

最近では、こんなにまったりと皆で過ごすのも久し振りだな。

「そういや、先週のラジオの質問コーナーさ、エグかったよな」

「あぁ…あれか。得意料理は何ですかっていう…」

先週のラジオ担当は、ミヤノとベーシュさんという黄金コンビだった。

俺も聞いてたよ。パソコンの前で。

あったね。そんな質問。

「エルのときに聞かれなくて良かった~。『ない!お茶漬け!』って言わなきゃならんところだった」

「分かる。分かりますよエル。俺だったら『素パスタです!』って言わなきゃならないところでした」

「…お前ら…」

ルクシーは呆れたように頭を振った。

ルクシーはこの中では一番料理出来る人だよね。

ルクシー母が料理上手だから。貴族なのに珍しい。

「まぁ…俺も似たようなもんだよ。料理はあまり得意じゃないし…」

と、ミヤノ。

確かミヤノはあのとき…。

「でも、得意料理はビーフシチューだって言ってたじゃないですか」

「うん。嘘じゃないぞ?一応。レシピがあれば大抵のものは作れるけど…。でも、料理が得意だとは言えないなぁ」

うーん…自分に手厳しい。

ビーフシチュー作れたら、充分料理上手の部類に入ると思うけどなぁ。

俺なんて万年素パスタだよ?缶詰と。

その点ベーシュさんは、素直だった。

「ベーシュさんの得意料理は…」

「冷凍パスタ」

即答だもんなぁ。

潔くて宜しい。

「…ちなみに、チンするだけの奴ですよね?」

「勿論。袋の表示より少し長くチンするのがコツだよ」

そうなんだ。覚えておこう。

つまり、料理らしい料理は作れないってことだね?

缶詰も多用してるもんね、ベーシュさんは。

とはいえ、俺はベーシュさんの料理の腕前を笑うことは出来ない。

チンするだけのパスタに頼っているのは、俺だって同じなのだから。

「ベーシュさん、料理するの苦手なんですか?俺も人のことは言えないですが」

「別に苦手な訳じゃないよ。ただ…自分で作ってもあんまり美味しくないから、無理して作らなくても良いかと思って」

「?美味しくない?」

それってつまり、料理下手ってこと?

「私の父がね、料理凄く上手なの。それをずっと食べてきたから、自分で作ってもあまり美味しく思わなくて」

あ、そういうことなのか。

お父さんが料理作ってくれるんだね。良いね、そういうの。

「そうなんですか。ベーシュさん、お父さんと仲良しなんですね」

「…うん。まぁ…そうだったかな」

…だった?

何で過去形…。それってつまり…今は…。

その場にいた皆が、ベーシュさんの言わんとすることを察したようで。

エルーシアが、話題を逸らすようにテレビを指差した。

「あ、見てあれ。そういや今日だったんだな」

「本当だ。新しい女王様になって、もう五年もたつんだな」

テレビに映っていたのは、ルティス帝国の女王、アルティシア・ベルガモット陛下の即位五周年記念式典の中継だった。